よいよい研究02

「サッチ!モカ今日で最後だろ!?」
「ああ、そうだったな。」
「何かしないのか?」
「なんかって・・・なんだよ。」
「サヨナラパーティーとかよ!」
「パーティーって・・・そんなキャラじゃねえだろ。」
「ん〜それもそうだな・・・。」


今日の出勤でモカはモビーをやめちまう
結局聞き出せなかったのは、その後どうするかだった

日曜日の昼営業が終わり、俺がまかないを食ってたら
初めて眼鏡をはずしたモカが出勤して来た。

「モカちゃん!?みっ・・・見違えたよ。コンタクトも使うんだな。」
「・・・はい。」

そそくさとロッカーに入って行き、エプロンを付けて
洗い場で食器を洗い始めたモカの様子がいつもと違うのに
気づいたのは俺だけかな?

「どうしたモカ?大丈夫か?」
「・・・だっ、大丈夫ですが、何か?」
「なんか、わかんねえけど・・・。様子がおかしいなと思って・・・」

ガシャン!と音を立てて、モカは食器を洗い桶に落とした。

「・・・エース君、サッチさん・・・。おっ、お願いが。」
「え?どっ、どうしたの!?」
「・・・私、ホントは今日用事があって・・・。」
「えっ?えっ?それならそうと早く言ってくれれば・・・」
「おう、行けよ。俺、このまま店にいるからよ!」

「それが・・・すごくヘンなお願いなんですが・・・。」
「ん?」

「エース君にも一緒に来て欲しいの。」

なんだろう・・・いつもは分厚いレンズの奥にあった瞳が
真剣そのもので、頬も赤らめて・・・ああ!


こいつ、俺のこと好きなんだ!


「さ…サッチ!日曜の夜なんだから店、大丈夫だろ?」
「え・・・あ、いいぞ。何だか知らねえが行って来いよ。」

「ありがとうございます・・・。あとでちゃんと、ご挨拶に伺いますんで!」

モカは慌ててロッカーに駆け込み、何故かスーツに着替えて
店を飛び出した。
お・・・おれ、ハーフパンツの軽装だけど、コレ一緒に行っていいのか?

「で、ドコいくんだよ?チャリで行けるところか?」
「いえ、千葉大学です。大丈夫、タクシー代出します。」
「え?え?ええぇぇぇぇ!?」

何故か俺はタクシーに放り込まれた。

いや、てっきりなんかこう・・・お台場とかに行って
告白されるのかと期待してたんだけど。
なんだよ、千葉大学って・・・。そんなロマンチックなとこなのか?

「で、なんで千葉大学?」
「最終面接なんです・・・今まで、何かと理由を付けて伸ばして貰ってたんですが
今日を逃がしたらもうチャンスがなくて・・・。」
「なんで俺が一緒に・・・」
「笑わせて欲しいんです・・・私、今回は失敗できない。」

「・・・よい。」

複雑だな・・・なんか、妙にドキドキしてる
それと同時に胸のあたりがチクチクする

首都高に入ったタクシーがちょっとだけ速度が上げた
なんだかそれに合わせるみたいに、俺も緊張してる
モカの表情も、いつも以上に暗くなっていった

「よいよーい…よいよい。」

とりあえず俺はよいよいと言い続けてみた。
だが、今日はなかなか笑わない。

こんなときに役に立たないなんて
たかがよいよいだ、アンの彼氏の・・・マルコだったか?
会うことがあったら文句つけとかなきゃな!


2時間近くかけて、タクシーは都を抜け県へ・・・

その大きな建物を目の前に、モカは仁王立ちしていた
すこし緊張に震え、だが眼光するどく睨みつけているんだ
目の前にある何か、大きな・・・「夢」に


「・・エース君、付いて来てくれてありがとう。」
「ん?ああ・・・。」

全然笑ってねえじゃん・・・。

「お前さ、笑ってねえよ。」

思わず俺は、モカの仁王立ちの前に仁王立ちした。

「何か、わかんねえけど。
やりてえことがあんだろ?だったら普通・・・笑えるもんじゃねえの?」
「・・・ホント、そうできたら楽なんだけど。」
「できんだろ!ほらこうすんだ!」

俺はモカの顔を掴んで顔をへの字に曲げた。

「い"・・・いらいいらいぃ!らにすんろ!?」
「おまえもやれ!おれの顔曲げて見ろ!」

モカゆっくりと手を伸ばすと、俺の顔に触れて
力いっぱいに頬を引っ張った。
まだ残暑厳しい季節だと言うのに、彼女の手は
冷たかった。

「ぶふっ…わははははは!」
「ふふっ…フフッ!」

「おらおら、ほのふぁんふぁのかほでいっれほいお。」
「は・・・はに?」

二人で同時に顔から手を離すと、モカは笑ったままでいてくれた。

「その顔!それでぶちかましてこいよ!・・・俺、待ってるからさ。」
「・・・ありがとう。」

今度は、俺が待ってた「決心の笑顔」でモカは歩き出した。




千葉から東京に向かう総武線
帰りの電車では、疲れきってたのかモカは
グタっと俺の方に頭を任せきって寝ていた。

やっと話が聞けると思ったのに・・・

東京駅で彼女を起こして、地下鉄の短い乗り換えのときに
やっと会話ができた

「で、おまえ・・・何になりたいんだ。」
「・・・それはちょっと、言いにくい。」
「あ、俺のお嫁さんとか?」
「え、ふふっ。そうね、それも面白そうだけどね。」

笑顔を見るたびに、言い表せない気持ちが芽生えて行く
あったかいけど・・なにかちょっとチクチクする感じ

だけどさ、やっぱりもう一回その笑顔が見たくて
おれは結局しょうもないことを言ってるんだ。


「よいよい!まだそんなに遅くねえしよ、どっか寄ってかねえか?」
「・・・そうだね、いいよ。」

なんか、このままモビーに帰ってもモカはサッチに
挨拶してサヨウナラしそうだった。
それじゃなんか、気が済まねえんだ。

彼女は明治神宮がいいと言い出したので、またそのチョイスに
ちょっとがっかりしながらおれは彼女の後について地下鉄を降りた。


日曜の夜ということもあり、代々木公園も人はまばらだ。
時間も遅く、本堂は閉門されてたけど、外苑のベンチに腰掛けて
二人で缶コーヒーをすすった。

「よいよーい。」
「・・・。」

なんとなく会話がなくなっちまって、気まずい空気になってた。
とりあえず、よいよい言っておく。

「よ… 」
「ねえ、それ何?」
「よ、よいよいだよーい。」
「・・・。」

真顔で俺の顔を覗き込んだモカは首を傾げたまま静止していた。

今度は笑顔じゃなくても、その顔すら俺の胸をチクチクと触る気がした。

もしかして、俺たちって・・・

「おまえが笑うかなって思って・・・よい。」
「え?それでずーっとよいよい言ってたの?」
「うん・・・。」

もしかして、俺もこいつのこと・・・

「私のこと、笑わせたかったんだ・・・。」
「うん・・・。」

モカは眉を上げて下唇を突き出すと、ふぅとため息をついた。

「エース君… あなたは気づいてないのね。」
「はっ?何に?え?なになに?なんなの?」
「… 19だったよね・・・。いや、いいの!ごめんね… 」
「は?全然わかんないけど。」


焦った、俺の考えてた事を読まれた気がした。
でもさ、俺は言わなきゃ気が済まないんだ
女に言わせるなんて・・・男じゃねえ。

俺、やっぱりこいつの事・・・好きなんだ。

「モカ!俺さ、お前のこと」
「私、アメリカに行くの。面接の結果次第だけどさ・・・。」

あからさまに俺の言葉を遮るように、
モカは前を真っすぐ向いてそう話した。


「え?」
「たぶん大丈夫だと思う。エース君のおかげで、自信ある。」
「な・・・なんで?千葉じゃねえの?」

「学会で来てた教授がたまたま千葉大の研究所に来てたから、そこで面接お願いしたの。
ほんとは去年も一昨年も、チャンスはあったのに… 自信なくて。
自力でそこまで辿り着かなきゃ、そう心では分かってるのに・・・。なかなかね。」

「・・・ど、どのくらい?」

「もう日本には帰ってこないわ。」

「あ・・・アメリカの何県に?」

「・・・カリフォルニア州ね。法医学の研究チームに・・・ずっと入りたかったの。
でも大学卒業後に、チャンスを見逃し続けて、今やっと・・・やりたいことにありつけた。
エース君のおかげ、ありがとう。」

「・・・おう。」

「笑ってくれないの?」

「・・・。笑ってねえか?」

「私は、科学者だからね・・・答えられないけど。
モビーでの時間や、エース君と話をしていた時間は
楽しかったし、幸せだったよ。
エース君が私に関心を持ってくれて、笑顔を見せたり、
エース君の真っすぐな言葉とか聞いてたらさ
すごく楽しくて・・・笑えたんだと思う。」

「よいよーい、じゃねーのかよい。」

「・・・そうね。それは、よくわかんないけどさ。
私、今すごく楽しいんだ・・・だから、笑ってよ。」

それだ、俺が「見つけた」と思えた、あの日見た笑顔。
俺は俺の言葉で、モカを笑わせてやれてたんだ。


スゲーカワイイ笑顔だ。
眼鏡なしで5割増し
・・・ホント、痛々しいほどに

カワイイよ。

俺だって笑ってんのに
心が痛くて泣いてるのは
隠しきれてねえみたい



次に会ったときはもっと大人になって
頭よくなって
よいよーいの研究結果をモカにレポート提出しなきゃな

歩き出したモカの少し離れた後ろを歩いて

俺たちはモビーに向かった。



-----fin-----



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