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ガチャ、と後ろ手に扉の閉まる音が聞こえる。
車のエンジン音も、誰かの話し声も、周りすべての音が遠くに聞こえて。
俺の耳には、数ヶ月ぶりに聞いた真ちゃんの俺を呼ぶ声しか届かなくて。
いま、真ちゃんが俺のすべてを支配していた。

「っ、高尾…っ!」

目の前が暗闇に包まれて、暖かななにかに包まれて。
そして、頭上から愛しい真ちゃんの声。
俺がいま真ちゃんに抱きしめられてるんだとわかるにそう時間はかからなかった。

「し、んちゃん」

懐かしい、独特の匂いが俺を包む。
ああ、ほんとに懐かしい。
後ろに腕を回して、俺も真ちゃんを抱きしめ返した。


「高尾」

どれほど時間がたっただろう。
いや、実際にはそんなに時間はたっていなかったのかもしれないけれど。
真ちゃんは少し俺から離れて、真剣な目で俺を呼んだ。

「俺は知ってのとおり、あの日を境に3Pがはいらなくなった。それは、今も変わらない」

茶化を入れず、黙ってただこいつの話に耳を傾ける。

「俺はあの日、3Pがはいらなくなった原因を知っている。いや、気付かされたといったほうが正しいかも知れんが…」

「原因、わかったのかよ…?」

「…原因は、高尾。お前だった」

「俺…?俺、なんかしたっけ?」

「いや、正確にはお前と宮地さんだ。…高尾に親しげに絡む、宮地さんに嫉妬したのだよ」

「…はあ!?」

いや、待てよ。
嫉妬ってなんだよ?おい、それじゃあまるで俺のことを…

「…高尾。俺は、お前のことが好きらしい。そこでだ、高尾。俺は今から3Pシュートにもう一度だけ挑戦するのだよ。ずるいのは承知の上だ。だが、もし入れば…俺と、付き合うことを考えてみて欲しいのだよ」

赤い顔で、だけど真剣な目で俺の目を射る。
まさか、緑間ともあろうやつが俺を好きなんて…
っはは、面白いじゃん。

「いいね、乗った。ただ、成功しなかったときは…今までと同じだ。一生、な」

「…ああ」

自分で自分の首を絞めるなんて、本当に俺は馬鹿だと思う、
だけど。俺は、信じてるから。
秀徳のエースは、こんなときにこそ本領を発揮するのだから。



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久々に見る、シュートモーション。
肩の力は抜けている。ボールを構える高さもバッチリ。
そして、いつにも増して真剣な目。
しゅっ、と音が漏れてボールが真ちゃんの手から離れる。
そのボールはきれいな放物線を描き、高くあがっていく。
−ああ、ほんとうに憎らしいほどきれいだ。
ゴールに向かって一直線に落ちていったそれは、リングに少しも掠ることなくくぐり、地面に落ちた。

「~っ、よっしゃあーーーっ!!」

数ヵ月ぶりの3Pシュート。
それを打った本人よりも俺の気持ちの方は随分と昂っていた。

「っ、真ちゃん!おれ、おれ!」。

「ああ、わかっているのだよ」

駆け寄り、その随分と上にある口に俺のそれを落とす。
そのときの真ちゃんは、すっげー真っ赤でレアだった。

「おかえり、真ちゃん!」


これは一度躓いた秀徳のエースと、相棒くんのとある恋の物語。
ふたりの物語は、まだはじまったばかりだ。



絶対的3Pシューターと相棒くんのおはなし。

15.5.15



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