その他・番外編 | ナノ
貴方の最初

「あと10分かぁ…」
口の前で合わせた手に、ハァッと息を吹きかけながら、そう呟く。
「手袋はないのですか?」
「ん〜…つけてきたんだけどさ、雪降ってきたでしょ?それで手袋がビショビショになっちゃって。」
手袋をつけている方が寒かったため、外してしまったのだ。
「貸しませんよ。」
「な!!…なんも言って無いじゃん!」
「杏子の視線が私の手袋に集中していたので。」
「う〜………」
セバスチャンは1人、黒い暖かそうな手袋をはめていて、私は怨めしげにその手袋を睨んだ。
「普通こういう時は、片方の手袋を貸して、手繋ぐとかそういう展開じゃないの!?」
「それは漫画の読み過ぎです。大体私の手は冷たいですから、繋いでも暖かくはなりませんよ。」
「なんて夢のない………」
「ほら、そんなこと言ってるうちに、そろそろ今年も終わりますよ。」
「え?うそ!」
そう言って急いで時計を見ると、確かに今年が終わるまであと30秒で、私はセバスチャンに向き直った。
「セバスチャン、今年もありがとね。」
「えぇ。貴方には面倒かけさせられっぱなしでした。」
「あっはは〜……言い返せないや…」
「でも、そんな貴方の世話も、悪くなかったですよ。」
「誉められているのか貶されているのか全く分からない…!!」
そう言ったところで、周りの人たちが突然カウントダウンを始めた。
私達もそれにつられてカウントダウンを始める。
「10・9・8・7………んぅ!!」
カウントダウンの途中で、突然セバスチャンに抱き寄せられ、視界がセバスチャンでいっぱいになった。
そんな私達を気にもかけていないのか、周りの人たちは構わずカウントダウンを続ける。
「5・4・3・2・1!」
あけましておめでとう!という周りの声と同時に、唇は一度離されて、もう一度深く口付けられた。

そして秒針が一周まわったころ、
「はぁ………!!」
漸く唇が離されて、私は久し振りに口から酸素を吸った。
「セバスチャンに一番におめでとうって言いたかったのに…」
「私は、一年の最初と最後に杏子にキスしたかったんです。」
「……………」
「赤くなった杏子を一年で最初に見るのも、私ですよ。」
「う…五月蝿い!」
「照れた杏子も可愛いですよ。」
「も〜〜〜!!なんなの!」
「貴方の最初は、全部私がいいんです。」
「〜〜〜〜!!」




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