その他・番外編 | ナノ
眠れる森の美男?

「う〜‥‥‥」
「ほら杏子、手が止まっていますよ。」
「だって、分かんないんだもん!」
それは、ある休日の日のこと。
学生の天敵、定期テストが迫ってきていた時のことだ。
私は救いようも無い馬鹿で、隣に住む大学生の幼なじみ・セバスチャンの家に押しかけ、いつものように助けを求めていた。

「ていうかさ、なんでセバスチャンはそんなに頭いいの?私セバスチャンが勉強してるとこ、見たこと無いんだけど‥‥‥」
いつ遊びに行っても、セバスチャンは机に向かっている事なんてなくて、大抵ベッドに寄っかかって本を読んでいるのだ。
「まぁ、それはあれです。神は時として人に、二物を与えてしまうものなのですよ。」
それはつまり、勉強なんてしたことないってことか?
「うっわぁ☆超むかつく」
「光栄です。ほら、そんな事言ってないで、さっさと次の問題に行く!」
「はぁ〜い」

それからしばらく、私は問題集と睨み合いをしていた。
(ん〜‥‥‥あとちょっとで、この答えがでそうなんだけどなぁ‥‥)
ヒントを貰おうと、私は視線をノートに向けたまま、セバスチャンを呼んだ。
「ねぇ、セバスチャン」
「‥‥‥‥‥‥」
「セバスチャン?‥‥‥‥って‥‥」
(寝てるし。)
そう。
視線を上げ、セバスチャンを見ると、セバスチャンはベッドに寄っかかって寝ていたのだ。
読んでいた本も、だらんと力無く落ちた手の中に収まっている。
(でも、珍しいな。セバスチャンが人前で寝るのなんて。)
そう言えば、私も初めて見たかもしれない。
ソロソロとセバスチャンを起こさないように静かに近づくと、私はセバスチャンが眼鏡をかけたままだと言うことに気がついた。
(普段は眼鏡なんてかけないくせに、家庭教師の時だけ、かけるんだよね。)
初めてその姿を見た時は、いつもとのギャップにドキリとしたものだ。

(とりあえず、外してやるか。)
そう思い、セバスチャンの眼鏡に手を伸ばす。
起こさないように、慎重に。
「‥‥‥ん‥‥‥‥んぅ‥‥」
「!(お‥‥‥起きた?)」
セバスチャンの目は、開かない。
どうやら、寝言だったようだ。
私はホッと息をついてから、もう一度眼鏡を外し始めた。
それからゆっくりゆっくりと、眼鏡を外し終わると、私は眼鏡を傍らのテーブルに置いて、セバスチャンの顔をしげしげと眺めた。

(ほんと、綺麗な顔してるよなぁ‥‥)
サラサラとした黒い髪、凹凸一つないスベスベの肌、スッと筋の通った鼻、形の整った薄い唇。
昔から誰よりも格好良かった、私の幼なじみ。
思えば、セバスチャンのせいで私は理想が高くなってしまったのだ。
(どんなに格好いい人を見ても、家に帰ってきてセバスチャンに会うと、どんな人も駄目に見えてくるんだもんな‥‥)
所謂、目が肥えているってやつだ。
(可愛いわけでもないくせに、理想ばっかり高くなりやがって、ほんと、馬鹿みたい。)
理想がセバスチャンだなんて。
セバスチャンを好きになるだなんて。

気がつけば、幼いときからセバスチャンは私の傍にいて、いつだって私を見守っていてくれた。
(叶うわけないって、分かってるのにさ。)
完璧超人なセバスチャンと、平々凡々な私。
当然釣り合う筈もなくて‥‥
それでも諦められないこの思いが、私の心をいつまでも支配する。
(はい、これで終了って、キッパリスッキリ忘れられたらなぁ‥‥)

そんな私の心も知らず、目の前のセバスチャンは眠り続けている。
(くっそぉ、気持ちよさそうに寝やがって!)
そんな事を思いながら、セバスチャンを見る。
(この気持ちは、思いを伝えたら消えて無くなってくれるのかな?)
諦めたい気持ちと諦められない思い。
結局のところ、セバスチャンに全て伝えてしまえば、私の思いも気が済んで、諦められるのかもしれない。
(でも、そんな勇気、私にはない!)
自分で言うのもなんだが、相当なチキンなのだ、私は。
(でも、寝てる間なら‥‥‥)
起きているセバスチャンに思いを伝える勇気はない。
そして、その答えを聞く勇気も。
でも、寝ているのなら、勇気だって少しで済む。
そして、答えを聞く事もないのだ。
だって、聞こえていないのだから。

私は寝ているセバスチャンの前に、居住まいを正す。
(これを言ったら、諦めよう。もともと、絶対叶わない恋だったんだ。)
そして心を決めると、私は口を開いた。
「ねぇ、セバスチャン。私達さ、本当にちっちゃい頃からいつも一緒にいたよね。」
いつだって私の目の前には、セバスチャンの背中があって、
「憧れだったんだ、セバスチャンが。小さな頃から、今でも。」
憧れた。
どんな事にも物怖じしないセバスチャンは、さながら童話に出てくる、どんな怪物にも立ち向かう王子様のようで、
「いつのまにか‥‥‥‥いつのまにかさ‥‥‥‥‥‥」
(これを言ったら、諦める。)
不意にそれが、とても悲しいことに思えて、私の目に涙が零れた。
「‥‥す‥‥好きに‥‥なってました‥‥‥‥‥」
私は泣きながら告白をした。
それは、私が初恋を諦めた瞬間だった。



「!!」
突然グイッと腕を引っ張っられ、私はバランスを崩して、目の前のセバスチャンの腕の中に倒れ込んだ。
「やっと、捕まえた。」
いつもよりもずっと近い場所から聞こえたその声に、私の心臓は高鳴った。
「ちょっ!セ‥‥‥セバスチャン!」
私は離して貰おうと、セバスチャンの胸を押す。
でも、離して貰うどころか、腕の力はもっと強くなって、私をギュッと締め付けた。
「く‥苦し‥‥「好きです。」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥へ?」
突然の言葉に、私は苦しいのも忘れて、目の前にあるセバスチャンの顔を、ポカンと眺めた。
「‥‥‥え?」
「貴方が好きです。」
貴方の部分を強調して繰り返されたその言葉に、固まっていた私の思考が動き出した。
「う‥‥‥‥‥嘘‥‥でしょ?」
私がやっとの事でそう言うと、セバスチャンはしかめつらをして、
「仕方ありませんね。」
と言って、私の唇に顔を寄せた。

逃げる間もなかった。
一瞬でセバスチャンの顔が近づいて、唇に何か温かなものが触れた。
「!!」
触れたのは、ほんの一瞬で、でも私にとっては紛れもないファーストキスで‥‥
「ほら、嘘じゃないでしょう?」
そう言って意地悪く笑った私の幼なじみは、真っ赤になった私を更にギュッと抱き締めて、もう一度キスをしたんだ。



(というか、セバスチャン寝てたんじゃなかったの?)(えぇ、寝てましたよ。杏子が眼鏡を外してくれるまでは。)(結構最初から起きてたんですね‥‥)(珍しく、杏子から近づいて来てくれたので、もう少しだけ寝たフリをしようと思ったら、泣きながら可愛い事を言(あぁぁぁ!言わんでいい!恥ずかしいから!)

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