リレー小説 私担当分 | ナノ


▼ 14

朝のギルドには、まばらに人が来ているだけだった。それでも普段より多い、とハッピーは言う。

「ナツだって、朝はいつも家で食べるんだよ」
「今日は何か特別なのか?」

特別メニューでもあるのだろうかと考えるグレイにハッピーはハァ、と溜息をつき、意味ありげな視線を寄越す。

「どこのグレイも鈍いんだね」
「はぁ?何言ってんだよ」
「昨日の夜からずーっと、やっぱ連れてこればよかったとか、いやでもあれは違うやつだとか、もう煩くて」
「誰が?」

ハッピーは黙ってテーブルの桜色の頭を指す。
当の本人はというと、既に朝食のプレートを手にしてテーブルに置いている。

「何してんだ、お前ら、早く来いよ!」

…二人を呼ぶナツの元に向かいながら、グレイは思う。
こっちのナツも、表面では何だかんだ言いながらも、困っている人に優しい、と。
この世界のグレイもきっと、あちらのナツがいれば大丈夫だ、とも。
同時に先程のラクサスの言葉を思い出して、グレイの気持ちは沈む。
あの時と同じ条件を、あちらのグレイと同時に揃えられなければ、別の平行世界と繋がるかもしれない、とラクサスは言った。
果たしてそんなことが本当にできるのだろうか。あちらとの通信手段もないというのに。

「どした?あんま食ってないな」

は、と顔をあげると向かいの席からつり目がグレイを見つめていた。
自然、ラクサスに言われたことをナツとハッピーに話す。
ラクサスの名前が出ただけでムスッと不機嫌さを露にしていたナツだったが、そんな可能性までは思い付かなかったようで、悔しそうに一瞬黙りこむ。
しかし。
次の瞬間、ナツはすっくと立ち上がると、ニカッと大きな笑顔を見せる。

「大丈夫だ。向こうにはあっちの俺がいる」
「だから?」
「俺なら、何かドデカイことをやるタイミングもきっと同じはずだ」

その得体のしれない自信はどこから来る、という目でナツを見るグレイに、エドラスの俺も、いざって時に力を発揮して助けてくれたイイヤツだったから、あっちの俺もきっとグレイの力になってる、とナツは続ける。
それに、とナツはグレイの瞳を力強く見つめながら、言う。

「…それにあっちには俺の知ってるグレイがいる。あいつはこういう時、妙に頭が回るからな、今頃、同じ条件を揃えられるようにあっちの俺と相談してるかもな」

こっちも負けてられねえ、と明るく笑うナツの笑顔に、いつしかグレイの心も軽くなり。
グレイはようやく朝食に手をつけ始めた。


朝食を済ますと、ナツはハッピーと共に仕事に行ってしまった。
前から決めていた仕事だそうだ。
エルザも、べたべたと依頼書の貼られたリクエストボードをしばらくじっと睨み付け、その内の一枚を剥がすと、カウンターの中のミラジェーンに手続きをしてもらう。
その様子を少し離れたテーブルから何となく眺めているグレイに視線を向け…その目が一瞬だけ、寂しげな表情を浮かべたので、グレイは胸をつかれる。
エルザの目に今、映っているのは、実際ここにいる自分ではなく、こちらのグレイなのだろう。
グレイの表情を読み取ったのか、エルザはすぐに目だけで笑う。その目が間違いなく今、ここにいる自分を安心させるかのようにほころんだので、グレイもぎこちなく微笑みを返す。
大丈夫、きっと帰れる。
俺だって、元いた世界に帰りたい。
ここに長居するつもりはない。
同じ顔をしていても、やはりあのナツはあちらにしか存在しない。
きっとこちらのグレイも、こちらを恋しく思っていることだろう。
たとえラクサスにあんな風にからかわれることがあっても。
そう思った瞬間、ちらりと脳裏にオレンジ色が閃き、グレイは狼狽える。
やわらかいオレンジ色の髪、シャンプーだろうか、甘い香り。
…不自然すぎる至近距離で見た、ロキ先輩の瞳。
そうだ、あんなことになっても、元いた世界に戻りたいと願う自分がいるのだから。
こちらのグレイが、どんなやつなのかわからないけど、ラクサスにあんな扱いを受ける可能性があるとしても、帰りたいはずだ…。


ギルドにいた連中が三々五々仕事に行くと、グレイはすることがなくなった。
魔法が使えないと何の役にもたたない。
仕方なく、ギルドの裏手に出る。
裏の川原の土手は、なだらかな坂になっており、下にはゆったりと流れる川が見える。
グレイは少し土手を下り、温かな草の上に座る。
鳥がピチュピチュと鳴く。音もなくゆったりと流れる川は、きらきらと日差しを反射する。
携帯もTVも漫画も、音楽プレーヤーもない、世界。
(どうやらラクサスの持つ音楽プレーヤーはあまり一般に普及していないようだ。ギルドでは他に誰一人持っていなかった)
自分の知る世界とはあまりにも違いすぎる、魔法に満ちた世界。
グレイはそのままごろんと横になる。
空に雲が流れる様子を見るともなく眺める。
こんなゆったりとした時間は、本当に久しぶりだ。
テストだ塾だとバタバタと過ぎる日常、読みたい漫画の発売日、考えなければならない進路、母親の小言。
なにもかもから解放されたここは、ある意味、天国なのかもしれない。

「グレイ」

優しい声が空から降ってきたような気がして、グレイは目を開ける。
知らぬ間に、うとうとしていたようだ。
日の光を遮る黒い影が、くすりと笑う。

「ごめん、起こしちゃったね」

爽やかな笑みを含んだ、その声。

「…先輩」

グレイは目をこすりながら身を起こす。
ロキは隣に座ると、遠慮がちにグレイを見る。

「ちょっと聞きたいことがあって」
「…何を?」
「僕は…あ、いや、向こうの僕は、君に何か、した?」

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2013.1.6.


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