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どこにやったと言われても。詰め寄られた体勢になったグレイの頭の中は真っ白になる。
喉の奥が大きく膨らみ、息苦しくなる。
んなこと知るか!俺が知るわけねぇ!
「お…」
「お?」
「お前こそ、誰なんだよっ!」
始めの一言が出ると、あとは勝手にするすると言葉が出てくる。
「組織や臓器に分化する元となる細胞は?!」
「はぁっ?!」
やっぱり。やっぱりこいつ、俺の知ってるナツじゃねぇ。
午後の補習授業で、唯一ナツが答えられた問題。ニカッと笑ったあの笑顔が、今は遠い。
目の前の桜色の頭が、少しひるんだように見える。
「なっ…何言ってんだ、お前…組織、って何だ、密輸組織か?麻薬組織か?」
「…わかった」
「何がだよ」
一人、考えに沈み始めるグレイを前にして、ナツもまた、確信する。
こいつは俺の知ってるグレイじゃない。匂いも違う。体も薄っぺらい。
だけどこの瞳は、俺の知ってるグレイと一緒だ。
真剣に頭の中の考えをまとめようとしている時の、この瞳。
名を聞いたら、グレイだと名乗りやがった。そしてあいつと同じタレ目で、あいつと同じ表情をする。
ナツは息を吸い込む。
「お前、あっちの俺を知ってるのか?」
グレイはナツの瞳をじっと見て、何を思ったのか、頷く。
「…お前はあっちでも、俺の」
グレイはそこで、口ごもる。
ナツはその先が気になって、何故か早くなった鼓動を意識しながらも、促す。
「お前の?」
促されるまま、グレイが次の言葉を探していると。
「あっちとは、どっちなのだ?」
二人が(いやハッピーも入れて三人か)食事していたカウンターの後ろのテーブルで、今までじっと二人の様子を観察していたエルザが、痺れを切らせたのか、威圧的に聞いてくる。
ナツとグレイ、二人の体が反射的にびくりと跳ね…二人の頭の中には、まさに同じ言葉が浮かぶ。
ああ、どこのエルザも同じなんだ、と。
「お前は先ほどのナツの問いに、頷いたな?…お前はどこから来たのだ」
「それは、俺にも解らねぇ。けど、ここは俺がいた世界じゃない」
自分のいた世界で、マジックショーでもないのに炎を食らうヤツがいたか?背中に急に羽を出現させて空を飛ぶ猫が(しかも色は目の覚めるような青だ)いたか?
エルザの瞳がすっと細くなる。立ち上がり、つかつかとカウンターのグレイに近づいたかと思うと、すらりと剣を抜き、グレイの喉元に突きつける。
「っ…!」
両手を上げて、首を引き攣らせ、喘ぐしかないグレイの白い喉に、エルザは剣先をつける。
「私たちのグレイは、お前たちの世界にいるというのか」
少しでも動いたら、よく切れそうなこの剣で喉をかっ切られそうな恐怖を味わいながらも、グレイは目で頷き、上ずった声をあげる。
「おそらく…そうとしか考えられない」
空ですれ違った一瞬の光。同じ顔を持つ、違う自分。
「…そうか」
すい、とエルザが剣をおさめる。
グレイはその場にへたり込んだ。
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す、すまない、RIUさん…!というわけで、答えはES細胞でした♪→7(RIU様)
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2012.9.19