星流れる


星月学園に転入してきて、早くも一ヶ月が経った。
ほぼ男子校に近い星月学園にも慣れてきた時、それは突然やってきた。
星月学園の授業は普通の学校と違ってレベルが高い。
おまけに課題の量も多くて、放課後は図書館に行く生徒が多い。だから部活動をやる人はそんなにいないと聞いた。
転入する前の学校では部活に入っていたけど、放課後はのんびり過ごしたいって思って部活には入らなかった。
…婚約者を捜すっていう理由もあるけどね。

「宇海! やっと見つけたぞ…っ」
「獅子くんてばひつこいー」

いきなり目の前に現れた獅子くんに面倒くさそうに吐き捨てて、ウチは元来た道は全力で(とまではいかないけど)逃げた。
獅子くんは逃げたウチを全力で追いかけてきた。背が小さくても一応教師なんだから廊下は走っちゃだめだと思う!

「俺はチビじゃないぞおおおお!」
「獅子くんてば読心術が使えるのー? すごいねー」
「背が小さいところだけ口に出てたぞ! そして何で棒読み!?」

全力疾走しながら会話してるウチと獅子くんの姿は、周りから見たらさぞかし変な光景だと思う。
でもこの追いかけっこを始めて今日で6日目。最初の内は変な目で見られたけど、最近は応援されることの方が多い。

「おっ、今日もやってる。頑張れー!」
「チビ先生に負けるなー!」

不運なことに獅子くんを応援してくる人は誰一人としていない。
そのことにショックを受けながら、ウチを追いかけてくる。
ウチと獅子くんが昼休みの学園で追いかけっこをしてるのは、ちょっとした理由があるんだ。
獅子くんはあー見えて弓道部の顧問らしい。ウチの記憶が正しければ獅子くんの学生時代は勉強一本だけだった。
生徒思いで熱血男代表の獅子くんは何としてでも弓道部をインターハイで優勝させたいらしい。
どこで調べたのか(きっとお兄ちゃんだ)獅子くんはウチが弓道三段の持ち主だということを嗅ぎつけた。
そして獅子くんはウチを弓道部に勧誘しに来たけど、ウチはきっぱり断った。
上で思たことを獅子くんに言っても(婚約者云々については伏せた)獅子くんは諦めが悪くて、顔を合わせる度に「弓道部に入らないか!?」と言ってくる。
面倒くさくなったウチは獅子くんに、ウチを一週間以内に捕まえることが出来たら弓道部に入ってあげる、ということを提案してみた。
すると獅子くんは思たとおりウチの提案に乗ってくれた。これでも足には自信があるから、そんな簡単には捕まってあげないけどね。

「きゃっ…!」

廊下の曲り角を曲ろうとしたら目の前に人が現れて、走っていたから急に止まることが出来なくて、ウチは目の前においる人にぶつかった。
ぶつかった反動でこれは尻餅を着くって思って覚悟を決めたけど痛みは来なかった。
恐る恐る閉じとった目を開けてみると、ぶつかるって思った人にウチは抱きしめられていた。

「大丈夫?」
「はい大丈夫です。ぶつかちゃってごめんなさい」
「怪我がなくて良かったよ」
「先輩が助けてくれたおかげです」

ちらってネクタイを見れば青色で、目の前にいる人はウチに一つ上の先輩にあたる。
ウチがぶつかったっていうのに先輩は自分よりウチの心配をしてくれた。
久しぶりにこんな人見たなーって思っていたら、こっちに近付いてくる足音が聞こえた。
後ろを振り返れば、息を切らした獅子くんがいた。

「やっと追いついたぞ…っ」
「獅子くん、ひつこい男の子って嫌われるんだよー?」
「何ぃ!?…って男の子ってなんだ! 俺は立派な大人の男だ!」

えっへん! と胸を張って言った獅子くん。
ウチより小さくて童顔な獅子くんが言っても説得力がないよ。

「…ふっ、ふふ」
「か、金久保?」

ウチと獅子くんの会話を聞いていたのか、先輩は口元に手を当てて笑い出した。笑っても絵になる先輩だなー。

「す、すいません陽日先生! でも、可笑しくて…っ」
「可笑しい?」
「自分より背がちっちゃくで童顔な獅子くんが言ったら、誰でも笑っちゃうよ?」
「ちっちゃい言うなー!」

顔を真っ赤にさせて言った獅子くんが面白くて、ウチとカナクボさん(でいいのかな?)は二人して笑いだした。

「ごほん! それより宇海、ちゃんと捕まえたんだから…」
「今のは無しでしょ。先輩にぶつかっちゃって、それどころじゃなかったんだから」
「そ、そんなぁ…」

あからさまに落ち込んだ獅子くん。
え、そんなに落ち込むと、ウチが悪いわけじゃないのに罪悪感が…

「陽日先生、そんなに落ち込んでどうしたんですか?」
「こいつ中学の時に弓道やっててな、それはすごく上手くて弓道三段持ってるんだぞ!」
「獅子くんが自慢げに話してどうするの」
「弓道三段なんてすごいね。僕は四段を取ったばかりだよ」
「弓道やるんですか?」
「金久保は弓道部の部長だからな!」
「だから獅子くんが自慢げに言ってどうするの」
「三年生の先輩方が引退して部長になったばかりなんだけどね」

でも部長になるってことは相当の実力があるか、人を束ねられる力を持つ人だと思う。でもカナクボさんはその両方を持ってるんだろうなあ。

「自己紹介がまだだったね。西洋占星術科2年の金久保誉です」
「…! 星詠み科一年の汐崎宇海です」

西洋占星術科、二年生、弓道部…。
…見つけた。獅子くんもたまには良いことするんだね。
ちょっとブランクがあるかもだけど、練習すれば何とかなるかな。

「獅子くん、弓道部に入部するの考えてあげる」
「本当か!? ぃよっしゃああああ」

テンションMAX状態の獅子くんにちょっと引いただけ、逆にカナクボさんはにこりって笑ってウチの方に手を出してきた。

「弓道部への入部、大歓迎だよ。これからよろしくね」
「よろしくお願いしますね、金久保先輩?」

ウチも右手を出して金久保先輩と握手をした。






(まずは一人目を)
(見ーつけた)

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