キャアアアアと黄色い歓声を上げる女の子の群れを私は必至の思いでかきわけていた。
「ちょっとすみまゴファッ」
「ここ遠しゴフッ」
「後ろしつれグハァッ」
ただ群衆の中前に進んでいきたいだけなのに頭に肘鉄振り落とされたり鳩尾に肘鉄食らわされたりアッパーカット思い切り食らったり、入口に行くだけで散々だ。ん?アッパーカット?アッパーカットって人ごみかきわけていく中でおきる出来事?
散々な目に遭って心が折れそうになる…とは思わない。小四から鍛えたスポコン根性、こんなものではめげてたまるか!と胸を張ったら頬に肘鉄を食らわされた。というかなんで肘鉄というよりによって人間の中で攻撃力が高い部類に入る体の部分が入ってくるんだ。
もう少しで入口だ。希望の光が見えてきてよっしゃと小さくガッツポーズをする。
もう少し、もう少しで、あの人に、会える。
そう思った時だった。
「見えないじゃん!私にも見せてよう!」
そんな甘い声のあとに、背中を衝撃が襲った。
え。あれ。
そう思った時にはもうすでに遅かった。
私はバランスを崩し、顔面から思いっきりこけてしまった。
バーン!!と派手な音が体育館中に響き渡る。私はトラックに轢かれた蛙のような体勢になった。シン、と静まり返る体育館。いや今更静かになっても困るって。今こそざわめき盛り上がってくれよ。
「いってえ…」
這いつくばった状態でじんじんする顔面を上げる。すると、いい匂いが空気にのって、ふわりと私の元まで届いた。その匂いにつられるようにして顔を上げる。
バスケ雑誌の切り抜き、遠い観客席からは何度も何度も見た。
日本人とは思えないほどの綺麗な金髪が目に入る。
切れ長の黄色い瞳を真ん丸にして私を凝視している、私が憧れてやまない人がいた。
敵がいないみたいに楽々と切り抜けていくドリブル。
どんな難しい技でもあっという間にオリジナル以上のものに仕立て上げるテクニック。
ひとつひとつのプレイシーンが写真を現像するように浮き上がる。この人のプレイなら私は空で言える。
黄瀬くんが、
黄瀬涼太くんが、いる。こんなに近くに。
気付いたら、言葉が飛び出していた。
「私を弟子にしてください!!」
たらりと鼻の下を赤い液体が伝った。
最大級の馬鹿みたい
「…は?」
「あ、スンマッセン!こんな体勢で!」
「いやそういうことじゃなく、」
「うおおおモノホンの黄瀬くんまじやべえ!!」