それが、証
ついにやって来た。
オイラは日めくりカレンダーの日付を確認すると、胸に手をあて深呼吸した。
大丈夫。きっと大丈夫。
寝巻きにしていた仁平を脱いで、いつもの服に着替える。割と気に入ってる黒い装束も着て、部屋を後にした。
「おはようございますデイダラさん」
「はよ」
鬼鮫が先に起きていた。今日は早いですねぇとオイラに味噌汁を渡しながら言って来た。
口元が若干笑っているところを見ると、どうやら理由はバレているらしい。
「なまえは?」
「まだ起きてませんよ」
「…そうか」
ズズッと汁を飲み込むと、じんわりと身体が暖まった。ご飯には隣に納豆が置いてあり、いつものようにかけようとしたが今日は断念。
「んあ?デイダラちゃんじゃん、珍しい」
「おはようございます飛段さん。今日はどちらで?」
「デイダラちゃんと一緒でいいよ」
「和食ですね、分かりました」
飛段が珍しく朝から起きて来た。聞けば、今日は任務らしい。角都が別のアジトにいるらしく、そこに寄ってからだから朝早いとか。
オイラの横に座ると、ぐるぐると納豆を掻き混ぜ始めた。それを見ていて欲しくなったけど、今日は我慢。
「デイダラちゃんは何で早ぇの?」
「飛段さん」
「……ああ、なるほどねェ」
鬼鮫が目配せをすると、飛段はにやりと気持ち悪く笑った。
「そうだったな、今日ぐらい頑張れよデイダラちゃん」
「るっせぇ」
なんとなくガキ扱いされてムカついた。まあ正しいことを言われてはいるのだが。
「いいか、もうすぐ一年だろ」
「だから何だよ」
「押し倒しちまえ☆」
ぶほっ、と味噌汁を吐くかと思った。幸い味噌汁は飲み込めた。飛段殺す。ゲハゲハ笑うな。
「イキナリすぎだろ!もっと順序踏んでか…」
「は?キスもしてねェの?」
「な…いや、…………うん」
そう言うと盛大にオールバックが笑い出した。なんて下品な笑い方なんだろう。鬼鮫も若干笑っている。どいつもこいつもバカにしくさりやがって。
「オイラは18で、なまえは17だぞ!?」
「あのなぁ、最近のガキはもっとませてんぜ?」
た…確かに約一年で手を繋ぐぐらいまでと言うのも…遅いか。
いやしかしただでさえ好きとも言えてないのにキス…ハードル上がり過ぎじゃね!?いやそうしないと一生乗り越えられないんじゃ…
「ご…ごちそうさん!!!」
鬼鮫に食器を預け、急いで洗面所に向かおうとした。後ろで飛段がまだ何か言ってる。無視して扉のドアノブを開けたところでばったりと鉢合わせした。
「あれ、デイダラおはよ」
「…………お、…はよ」
最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ。
嫌でも飛段に言われた「押し倒しちまえ☆」が頭を過ぎった。
みるみるうちにオイラの顔は温度が上昇する。ヤバいどうしようなまえが顔を覗きこんで来た。
「デイダラ?具合悪いの?」
「さ、触んな!!」
頬に触れられた手を払いのけ、一目散にその場を走り去る。
途中すれ違ったイタチが不思議そうにこちらを見ていたが、気にしないで突っ走った。
洗面所に着くと、まだ朝起きたばかりだと言うのに身体はぐったりと疲れていた。
どうしよう。また冷たくしちまった。
水を流しながら、その水で顔を洗いながら、歯磨きしながら、そんなことを考えた。
なまえ傷ついたよな…
今なら、行けば間に合うかもしれない。
よし、と水道の蛇口をひねり、再びリビングに向かった。
「なまえちゃん誕生日おめんとさーん!!」
飛段の声が聞こえ、それにありがとうと答えるなまえの声がした。
オイラは完全に中に入るタイミングを逃し、リビングの扉の影に隠れていた。めっちゃ怪しいなオイラ。
「そうか、なまえも17か」
「早いですねぇ、なまえさんが入ってから暁も五年が経ったということですか」
「いやァ、良い女になったななまえ」
ぞわり、と背筋に寒気が走った。あの変態野郎、なまえに何かしたら承知しねぇ
「そう言えば、さっきデイダラが走ってどっか行ったが…何かあったのか?」
イタチが飯を食いながら、なまえに尋ねると、なまえの声が小さく聞こえて来た。
「…デイダラ…私のこと嫌いなのかもしんない」
「何故だ?」
「なんか…いっつも冷たいし、本当付き合ってんのかなぁって…少しくらい、彼女に優しくしてくれてもいいよね」
もう別れちゃおうかな。
その声と同時に、バンッとドアを勢い良く開けた。ズカズカとリビングに入って行くと、小さくなまえがオイラの名前を呟いた。
「ちょっと来い」
痛いというなまえの主張にも構わず、手首を掴んで強制的にリビングから連れ出した。
オイラの部屋に着くと、投げ入れるようにして入れ、ガチャリと鍵を閉める。
そんなオイラの一連の動きを見ながら、なまえがどうしたのと怯えたように尋ねて来た。
それには答えず、ゆっくりなまえに近づいて行く。その度になまえもゆっくり後ずさり、壁にぶつかったところで諦めたのかこちらを強く睨んできた。
強引に、強く抱きしめた。
「ちょ、デイダラ?く、苦し」
「誕生日おめでと」
そのままぶっきらぼうに言うと、なまえの抵抗する力が弱まった。
「嬉しいけど…」
「けど?」
「いつものデイダラらしくない」
オイラらしい?…て、なんだ。あの冷たいオイラのことか?そんなオイラの方がこいつは良いのだろうか。
「さっきの聞いてたの?」
「………うん」
「…バカね、本気なわけ無いじゃん。…でも…普段からこのくらい優しくして欲しいかな」
「…………うん」
甘えるように、なまえの首元に顔を預け、再びぎゅっ、と今度はなるべく優しく抱きしめてみた。
好きって言うのが怖かった。
離れられなくなりそうで、怖かった。
「オイラ、なまえが好き」
「ん」
「…ちゅーしてい?」
「…うん」
これじゃあ、どっちが年上なんだか。まあでもそんなのは関係ないか。
多分なまえもオイラもこれが初めてだと思う。なんていうか、息継ぎが普通に出来る。要するにディープじゃない。
と、ここでまた飛段の「押し倒しちまえ☆」が頭を過ぎった。第一難関Aは行けた。もしかしたら…
「…なあ、この先も…」
「無理」
…だよな。
諦めてもう一度唇に触れようとすると、左手で制止された。第一難関Aもだめなのかと軽くショックを受けた。
「…今は無理。あ…朝っぱらからとか無理」
……へ?
「それは…どういう意味?」
「………わ…分かれよバカ!!」
オイラの心臓の鼓動が、忙しなく動き始めた。
それが伝わりますようにと、再び強くなまえを抱きしめた。
それが、証
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