雲雀くんが彼のことを挑発し、いよいよ戦闘が始まる……と息を呑んだその時、背筋に悪寒が走った。以前感じた気配と同じものだ。気付けば目の前には突如として桜が現れ、雲雀くんが覚束ない足取りになっている。何が起こっているのかサッパリ分からない。
「んー?汗が吹きだしていますがどうかしましたか?」
「黙れ」
「折角心配してあげてるのに。クフフフ、本当に苦手なんですね……桜。」
「……!!」
綺麗に花弁を舞わせている桜がライトアップされたかと思いきや、そのまま雲雀くんは膝をついて動けなくなってしまった。桜が苦手と奴は言っていたがそういうレベルの話ではないし、今まで桜を前にしてもそんな素振りはなかった……。病気というワードがちらついた瞬間、うちの保健医が頭に過る。Dr.シャマルの奇怪な病気の数々を思い出せば、彼のトライデント・モスキートによる症状の可能性が高いだろう。
相手の男はついにソファから立ち上がり、雲雀くんを一方的に痛めつけ始めた。桜で鈍った動きで反抗するも無意味に等しく、殴っては蹴り、痛烈な音が部屋に響く。制服と顔はどんどん血にまみれて雲雀くんはただただ睨みつけることしかできなくなった。
『……っ!』
「おや?」
あまりにもひどく目を逸らしたくなる状況だったが、奴が夢中で暴行を加えている間になんとか上半身を起こし、こちらに背を向けた瞬間に矢を放った。
が、右肩に命中したところで奴はなんともないといった表情をしている。
「雲雀恭弥を見ていられず気力で起き上がりましたか。クフフ、なんとも勇ましい姿ですね。お返しついでに"契約"しておきましょう」
『ぐっ……!!』
「大人しくしててくれると有難い。」
突き刺されたのは三叉槍。それは右肩に食い込み、私の制服にも血の色が広がっていく。痛みで眉を顰めながら滲んでいく自分の体温を感じ、矛先を引き抜かれた勢いでずるずると壁にもたれかかる。無力な自分は、引き続き彼に加えられる暴行が早く終わるよう祈ることしか出来なかった。
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