ほぼ全員をなぎ倒してこちらの勝利となり、お金がどうのこうのと言ってたけど雲雀くんも帰っていった。
もう花火は間に合わないと溜息をついたツナだったが、リボーンくんが呼んでおいたらしい京子ちゃんとハルちゃんが手を振りながらこちらに駆け寄って来る。


「ここは花火の隠れスポットなんだ。」

「へぇーそうなのなー。お!始まったみたいだぜ!」

『綺麗……私もここから見るのは初めて。
……って見てる場合じゃない!急がなきゃ!』

「京子ちゃんから聞きましたよー!葵さん、ファイトですっ!」

『ありがとう!』


急いで化粧を済ませて裳を羽織おる。花火が中盤に差し掛かったので神楽殿へ移動していると、夜に際立つ白いウサギが目に入った。山から下りて来たのか、はたまた逃走中の飼いウサギか……。兎にも角にも珍しい光景だ。じゃあね、と声を掛け再び歩みを進めた。


「興味深いね。」


私の背を眺めながらそう溢した人物は、ウサギを頭に乗せると笑みを浮かべながら森へ消えていった。





「葵さん出てきた!」

「あの人から小道具を受け取るの、宝渡しって言うんだって。」

「物知りですね10代目!」

「葵に聞いただけだよ。ほら、始まった。」


荘厳な音楽と共に、静かな所作で舞を捧げる。左手で榊を仰ぎ、右手の神楽鈴を鳴り響かかせる。


「はひ……葵さん、とっても素敵です」

「うん!それに綺麗な音色だね。」

「オレ、昔からあの鈴の音が好きなんだ。夏の風物詩と言えばやっぱこの音だな。」

「……なんか、葵さんじゃねーみてーだ」


遠い空を眺めるように呟いた山本に、ツナは微笑んだ。
20分程して全て納め、拍手を送る人々の頭上に向かって鈴を鳴らす。


「ツナくん、あれって何をしてるのかな?」

「オレたちが健康で、これから幸せな事がありますようにって鳴らしてくれてるんだ。」

「何故ハルは今まで花火のあと帰っちゃってたんでしょうか!!こんな素敵な催しを毎年見逃していたなんてー!!」

「こういうのって皆スルーしがちだもんな。でも色々知ってみると奥が深いっていうか……やっぱ伝統って、ちゃんと意味があるから今まで続いてきたんだなって思うよ。」

「流石です、10代目……!」





『ふぅ……終わった〜!』


ベタつく汗を拭いて私服に着替える。片付けも終わり挨拶して外に出ると、不意にゾクッと背筋が凍った。何か嫌なものを感じる。今までにない感覚に冷や汗が頬を伝った。


『嫌な感じが、消えた?今のは一体……。』


確かな脅威が並盛に近付いている。私は大きな不安を抱えながら、いつもと変わらない夜道を走って帰った。






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