「ハァ?オレが?なんで」
眉をひそめて明らかに不機嫌そうに返ってきた言葉に、大地は苦笑した。
まぁ、そう返ってくると思ってたからいいんだけどね。
「往生際が悪いぞ、如月弟。
賭けに負けたんだから仕方ないだろ?それとも忘れたのか?」
フン、とつまらなさそうに言ったのは、東金千秋で。
もう夏も終わるというのに、なぜかこの菩提樹寮には各高校が集ったままだ。

「…あー、いや、忘れちゃいねぇけど……」
言葉を濁した響也は、視線を彷徨わせるとひとつ大きなため息をついた。
確かに、賭けをしたのは覚えてる。
でもあれはなんつーかその場のノリで、本気でやるなんて思ってなかったっていうか。
実際、賭けをするって決めたときは負けたら何をするとか何を賭けるとか、話してなかったワケで。
(…って言ったって、聞き入れてくれるワケないのは分かってるし)
「なにか不都合でもありましたか?」
眉間にしわを寄せてぶつぶつと呟く響也を見かねて、八木沢が声をかける。
この人になら分かってもらえるんじゃ、と淡い期待を抱いて口を開きかけた響也の希望は、しかしすぐに打ち砕かれた。
「おいおい如月、お前の弟はいざって時に逃げ出すのか?」
「ホンマや、こんなん罰ゲームでもなんでもないやんなぁ、千秋?
むしろ弟くんが羨ましいくらいやけど…イヤなんやったらしゃあないわ」
声に反応して見てみれば、鋭い視線を投げかけてくる東金と本心の読めない表情で微笑む土岐と、ばっちりと視線があって。
「響也先輩がやらないなら、僕が代わりにやりますけど」
おい、なんでそこでハルが裏切るんだよ!
そわそわと落ちつかない様子の八木沢と、余裕の表情の新も視界にいるし。
極めつけは、ぎろりすくみ上がりそうな火積の視線だった。
ハイハイハイ、迷いなくやりますよ、やるしかねぇだろっ!
くっそ、賭けなんてするんじゃなかった。じゃなきゃこんなこと、人前なんかでするかっつーの!
心の中で悪態をつきながら、響也は「わかった、やる!」と大きな声をあげた。


幼馴染っていうこの距離を崩すだけでも大変だっていうのに。
アイツらのせいだ!
意識してんのはオレだけでも、普通こんなことあいつにしないし。
こんなんじゃ、絶対にバレるだろ。



「かなで!」
名前を呼んで、歩を緩めることなく猛然と進んでいく。
あぁ、もう今のオレ確実に顔が赤い。真っ赤だろ、恥ずかしいな…!
「響也っ!?」
嗚呼、バカかなで。そんな近くで声あげんな、じっと見上げてくんな。
「きょ、今日だけ特別だ!甘やかしてやる…っ!
…あ、憧れ…たりするんだろ、お前も女なんだし、その…お姫様だっこ、とか…」
どんどん言葉尻が小さくなって、しどろもどろ。目線も泳いでカッコ悪ぃ。
でも、まぁ、かなでをこうやってお姫様だっこ、ってそれはまぁ、存外悪くないかもしれない。




(トトカルチョ的ななにかで罰ゲーム!
厳正なくじの結果、響也さんはお姫様抱っこでした。真っ赤になる幼馴染コンビ、かわいいなぁ!)






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