01

ルカスタジアム突如現れた魔物に驚き、人々が逃げまどっている中で悠然と構えている女性がいた。





美しい銀髪をなびかせて歩いている彼女は魔物の前で立ち止まると、長めの前髪を鬱陶しそうに掻き上げながら唇の端を上げて笑い、剣を取りだして構えると魔物を一睨みした―――

紅い瞳が魔物の姿を捕らえた。
獅子をも威圧するような眼光に危機を察知し怯えた魔物が怯んだその隙に致命傷となる一撃を与え幻光虫と変化させる。












「ふぅ……?あれは……」


一息ついて、自分の反対側で魔物と対峙している紅色の衣を身に纏った男を見遣った…。
見覚えのある……いや、忘れようとも忘れられなかった男であることを、戦っている姿で確信した。





「………アーロン……」






10年前、今では召喚士ブラスカと、ザナルカンドから来た『何てったって俺様は、ザナルカンドエイブスのエースだからな』と言っていたジェクトと共に、4人で旅をした。
アーロンは大事な仲間であると同時に、自分にとって何よりも大切な―――恋人である。




「帰ってきてたんだ……って、ボーっとしてる場合じゃなかった!ナマエちゃん、ピーンチ(苦笑)」



のんきにそう言った銀髪の女性―――ナマエの周りには10匹以上の魔物がいて囲んでいたのだ。

 

どこからどう見ても、絶体絶命の状態である。
そんな状態にもかかわらず、ナマエはポリポリと頭を掻いて辺りを見回すと、ニヤッと笑い剣を構えた。
剣にはものすごいエネルギーがみるみるうちに溜まっていった。


「さーて…いっちょやるかぁ!フレア剣!!」












そう。




ナマエは自らの剣に魔法を掛け、そのエネルギーを使用して敵を倒す『魔法剣』を操る戦士なのだ。
しかも、魔法剣を使える人間は現在では殆どいないのである。
フレアを掛けた剣はよりパワーを増して敵を一撃で仕留めていく。


「私の最凶奥義、受けてみな!!『ワールドエンド』!!」

タン、と軽く地面を蹴り宙に上がると、目にもとまらぬ速さで剣を振り敵にダメージを与えていった。
あっという間に敵が減った。




そして剣に再び魔法を掛けた。
この技を使用する際に掛ける魔法は、最強の黒魔法『アルテマ』。
一瞬のうちに剣にアルテマのパワーを充填したナマエは、剣を真っ直ぐ構えたまま2周ほど回り、アルテマを発動させた。



回りを囲んでいた魔物は、あっという間に消し飛んでしまった。

 













一方のアーロンも、さっさと敵を倒してナマエの戦いっぷりを見ていた。
10年ぶりに見る事の出来た恋人は、以前よりも遥かに強くなっているようだった。
きっとユウナを守るために更なる修行を積んだのだろう。
豪快に敵を倒していくナマエを見てアーロンは少しだけ笑った。



そして、アーロンは、ザナルカンドから連れてきたジェクトの息子・ティーダと、ワッカと合流した。









また、ナマエをスタジアムの端で見ている人物がもう数名いた―――

ユウナ・ルールー・キマリの3名だ。


「ルールー…、あれって…」
「……ナマエね…。髪が短くなってはいるけど、見間違えるはずがないわ。」

ユウナが一緒にいた頃は、腰の辺りまであの美しい銀髪が伸びていた。
しかし今は、だいぶ短くなっている。
剣技だって、強かった事は充分わかってはいたが、ビサイド島で一緒に暮らしていたときにはあんな技を見せた事はなかった。





魔法剣を使えると言う事すら知らなかったのだ。

「ナマエってあんなに強かったんだ…。」

ユウナが呆然としながら言うと、キマリが口を開いた。


「ナマエは昔から強かった。」

キマリとナマエは、お互いの修行になると言って、ワッカやチャップに見られないようにしながらよく手合わせをしていたのだ。
その時にナマエが魔法剣を使った事もあった。
しかし、島を出た4年前よりも格段にパワーもスピードも上がっている。
今の時点で手合わせをしても、勝てるかどうかは分からない程…いや、きっと負けるであろう。

キマリはそう思い、更なる修行をしようと密かに誓った。




「ナマエ〜っ!」




ユウナがナマエに向かって勢いよく走っていった。
その声に気づいたナマエはユウナの方に向き直ると、驚きに目を見開いていた。



「ユウナ!?」


凄い勢いで走ってきたユウナはそのままナマエに飛びついた。
二人は地面に倒れ込んだ…とは言っても、ナマエがユウナをかばって下敷きになったのだが…。


「今まで連絡もしないでどこ行ってたのよ!心配したんだから!!死んじゃったんじゃないかって…」
「……ごめん……。」
「会いたかったよ…。もう何処にも行っちゃやだよ…?」

ユウナは泣きながらナマエに訴えかけた。
彼女にとってナマエは、ルールーと同じように、ユウナの姉の様な存在だった。
時には母親の様にユウナを育ててきたのだ。
それはルールーにとっても同じことで、彼女もまた、ナマエを姉の様に思い、慕っていた。


「ナマエ…」
「ルー!!暫く見ないうちに随分とキレイになったね。この辺りも随分と成長し……イテッ!」

ナマエがニヤッと笑ってルールーの胸に視線を送ると同時にルールーに頭を叩かれた。


「もう…ナマエってば相変わらずね…。とにかく、会えて嬉しいわ。」
「私もだよ、ルー。キマリも久しぶりだね。……暑くない?」
「キマリは大丈夫。ビサイドより、過ごしやすい。」

ちょっとした冗談のつもりだったのだが、マジメに回答されてしまいナマエは苦笑しながらもキマリと握手を交わした。





それからナマエはユウナの方に改めて向き直ると、

「ねぇユウナ。私をユウナのガードにしてくれないかな?」

と訊ねた。
ユウナにとっては何よりも嬉しい言葉だった。



「私からもお願いします!」





こうして、ナマエはユウナのガードとなったのだった。




10年前心に決めた、固い決意と共に―――


















その後、アーロンとティーダがユウナ達と合流し、二人は正式なガードになった。

ルカの町外れでユウナとティーダが話している間にアーロンとナマエは、他のメンバーからやや離れた場所で10年ぶりの会話を交わしていた。

 





「…10年ぶり…だな。だいぶ腕を上げたようだが?」
「そりゃあね、いろいろあったからね……。ユウナレスカを倒すためには更なる力が必要だってことが分かってたし。
そう言うアーロンも、夢のザナルカンドにいた割には腕上げてない?……それに老けたし…。」

ナマエは最後の一言は小声で言っていた筈なのにアーロンにはしっかり聞こえていたようで、少し不機嫌そうに


「悪かったな、老けて。ティーダの子守が大変でな。」

と言った。


「あら…聞こえてたのね……。」
「ところでナマエ。お前、ユウナと一緒に過ごしていたんではなかったのか?」
「さ〜っすがアーロン。相変わらず鋭いね。」
「茶化すな。で、ユウナと共にいなかったのは何故だ?」

アーロンに真剣な眼差しで問われ、ナマエは渋々話し出した。












「あのさ…私の従兄の従召喚士だった人と、その弟にブラスカ達との旅の時に会った事、覚えてる?」







ナマエにそう言われたアーロンは、10年前の旅の記憶を辿った。



ジョゼ寺院から少し離れた場所にある村で、ナマエの従兄だと言った男に確かに会っている。
その従兄の名前はリュウと言った。
ナマエより5歳上で、少しナマエと似た顔立ちをしていた。
リュウはナマエの事を実の妹のように可愛がっていた、と言うより溺愛していたのだが。
そして、リュウの弟はタイガと言った。
弟の方はナマエより3歳上で、やはりナマエをとても可愛がっていた。
当時は従召喚士と、そのガードして生活をしていたはずだが…










「ああ、ジョゼの近くで会ったヤツらだな。」
「そう。そのリュウとタイガが4年前にビサイドにやって来たの。召喚士になったから、『シン』を倒しに行くって。
で、私もその旅に参加する事にしたんだよね。キマリにユウナを任せてさ。」

ナマエはその頃を思い出しながら、少し悲しそうな顔をして空を見上げた。



2人が自分の事を本当の妹のごとく可愛がってくれたと同様に、ナマエもまた、過保護な2人の従兄の事を本当の兄のように思い、
共に旅をすることに決めてビサイドを後にしたのだ。
この2人をはじめとしてビサイドに置いてきた可愛い妹たちと弟たち、そしてユウナをビサイドに連れてきてからずっと一緒に守ってきた、寡黙な仲間が安心して暮らせるようにしたかったから。




今度こそ究極召喚に頼らず、自分たちの力で『シン』を倒したいと思った。




こんな忌まわしい、死の螺旋など打ち砕いて、召喚士とガードを犠牲にしないで『シン』を倒して、いつかアーロンがスピラに戻ってきた時に驚かせてやろう、とも思っていた。
帰ってくるかも分からなかったが、そうしたいと思った。
もし戻ってこなかったら、この話題を手みやげに異界に行ってアーロンと語り合おう、と…。








しかしそれは叶わなかった―――







「とにかく、今度こそは召喚士が犠牲にならないでいいようにしないとね。それに……ジェクトも助けてあげなきゃだし!」

ナマエはパッとアーロンの方を向き、そう言った。


「…ああ、そうだな。」

アーロンも頷くと、2人はユウナ達に目を向けた。
ユウナとティーダは笑っていた。と言うか、わざとらしい笑い方をしていた。
仲良さそうにしている2人を見ながらナマエは胸の内で誓いを立てた。









ユウナを絶対に死なせない───。





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