サボりは屋上にて
※本編には出ない(予定の)設定や人物有り
※下ネタ有り
◇◇
立ち入り禁止の屋上がほとんどの現代、こうやって屋上に入れる高校は珍しいのかもしれない。
しかし学内にはもっと気軽に休める場所がたくさんあるため、わざわざここまで訪れる生徒は少なかった。
なにより屋上を訪れるのは素行に問題がある生徒が多く、一般生徒は屋上を敬遠しているのだ。
つまり坂田が屋上の扉を開けたときに先客が居たならば、その相手は問題児だということになる。
「南戸センパイ。今からヤんの?もうヤってんの?」
入り口から声をかければ、日差しを避けるため給水塔の影に居た南戸がうんざりしたように薄く笑った。
「見りゃ分かんだろ。オナニーすらしてねえよ」
「あっそう」
適当に返事をし、ずかずかと屋上に立ち入っていく。休むに最適な場所が南戸の周辺にしかないことを確認すると、坂田はそこにあぐらをかいて座った。
南戸とは学年も違えば校舎も違うため、滅多に会うこともない。
ただ、南戸は坂田と違った意味で有名人であり、その関係で互いの存在を知ってはいたし、たまに会えば当たり障りのない会話を軽く交わすこともあった。
「センパイが女連れてねえって珍しー」
「ここに来たがる女はいねえよ。こわい不良さんの溜まり場だからな」
「ヤってんのかと思って気い利かして確認してやったのに」
「さっきのくだらねえ質問はそれでか」
「学校でエッチするって興奮すんの?」
「そもそも学校じゃヤらねえからな」
「この前教室で女乗っけてたって聞いたけど?」
坂田は煙草に火をつけてフウっと吐き出す。
南戸が有名人なのは素行が悪いからではない。喧嘩や暴力行為はなく、喫煙や飲酒もしない。何が問題かといえば、その派手な女関係にあった。
「学校でって、なに夢見てんだか。AVの観すぎだろ」
「学校ではさすがにヤんねえか」
「しねえなあ。まあ、妥協してフェラまでかね。あれも色々面倒だけど、まあヤるよりはね。ああでも教室でチンコ咥えてもらうのは結構いいよ」
と、携帯を弄りながら南戸が淡々と話す。学校でセックスすんのと何が違うんだよと坂田は思うが、思うだけで言わない。正直どうでもいいから。
「この学校にもエロい女がいるもんだな」
「まあ、前に比べりゃここもまともになったな。坂本が会長になってからそういうのは減ったし。残ってるのは馬鹿ばっか」
「あのモジャモジャにそんな効果があんのかよ」
「人望のあるやつは怖いねえ。簡単に人を変えちまうから」
「アンタは人望なさそうっすね」
「俺に人望あったら後輩にまで顔面男性器なんて呼ばれてねーよ」
南戸は携帯に目を向けたまま鼻で笑う。ふざけた呼び名を案外気にしているらしい。
「坂田。煙草くせえ」
「すいませんね」
謝罪したものの火を消すつもりはないようだ。南戸は顔をしかめながら流れてきた煙を払う。
「先輩が吸わねえのに堂々と吸ってんじゃねえよ。校則違反だからな」
「チクんないでね」
「テメエら二人ともチクってやる」
「二人って、他に誰かいんの?」
坂田が辺りを見渡す。自分たち以外いないはずだ。
「俺がここに来たときの先客、ほらアイツだよアイツ、近藤んとこの色男くん」
「あーはいはい、土方ね」
「アイツ勿体ねえよな。もうちょっと愛想よくすりゃ女食い放題なのに」
「センパイは女に警戒されてんのにね」
「なんでかねえ」
「チンコ使い過ぎんのも問題じゃね?」
だよねえ、と南戸が肩を竦める。女遊びが過ぎたせいで多数の女子からヤリチンのレッテルを貼られ警戒されているようだ。
ぼんやりと煙草を燻らしていた坂田だったが、ふと思い出したように南戸へ顔を向けた。
「つーか、他校の女と3Pしたってマジっすか」
「他校ってどこ」
「隣町の女子高」
「あ、ない」
南戸は即答で否定する。
「その学校には手ぇ出さねえから」
「え、なんで?」
南戸の台詞が意外だったのか、坂田は珍しく目を見開いて訊ねる。
「うちのお嬢さんが通ってるからバレたら恐いだろ」
「お嬢さんって彼女?」
「違うよ。柳生っていう大きな道場の跡取り娘。俺ん家も柳生系列の道場やってるから、俺にとっちゃあ未来の雇い主になるわけよ」
「あー、南戸はヤリチンのくせに意外と喧嘩強いっつー噂はそこからか」
「そんな噂もあんのかよ」
若干自分の立ち位置に不安を覚えつつも、南戸は噂の元になったであろう状況を思い返してみた。
「お嬢さんを迎えに行った時かねえ。お嬢さんが友達とお茶したいっつーから付き合ったけど」
確かに三人でいたが、そこから3Pにまで噂が発展してしまうとは。さすがに発展しすぎやしないか。
「その、お嬢さんの友達とやらが噂流したんじゃねえの。センパイに気があるとかで」
「ふうん。志村ちゃんなら大歓迎だけど、そんなことあの真面目ちゃんがするかねえ」
「志村ちゃん?」
「そう、妙ちゃん」
坂田は煙草を指に挟んだまま目を瞬かせている。珍しい表情だ。しかし何か思い当たったのか、すぐに元の無表情に戻った。
「そーいやあいつん家も道場やってたな」
「お嬢さんとは幼馴染みなんだよ。流派は違うけど狭い世界だから」
「へえ。面倒そう」
「面倒くせえよ」
古くさい世界だ。退屈で窮屈な繋がりに縛られて生きている。だから女を抱いて気を紛らわせているわけじゃないが、面倒な習わしが多いのは事実だった。
「あ、志村で思い出した」
ぼんやりと空を眺めつつ煙草をふかしていた坂田が、目線を上に向けたまま口を開く。
「志村から聞いたことあんだけど、センパイ別の呼び名があるらしいじゃん」
その言葉に南戸の血の気がひいた。
「おい、それっ」
「確か四天王だっけ?」
「言うなって!」
焦る南戸を尻目に、坂田は煙草をくわえたままニヤニヤと笑う。
「自分で名乗ったりするんすか、四天王の南戸でーすとか」
「言うわけねーだろクソ誰だよあの子にバラしたの」
南戸は呻きながらぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜる。
「止めろよ本当にそれ恥ずかしいんだよなんだよ四天王って、誰が言い出したんだよマジで頭イカレてるからな」
「しかも四天王最弱らしいじゃん。あ、これはモジャモジャ情報」
「あーもー坂本にまでバレてんのかよ止めてくれって、四天王で最弱ってもう二倍恥ずかしいから止めて頼む、おっぱいの大きいエロい女紹介するから誰にも言わねえでくれ」
「いいケツしてるエロい女子大生なら考える」
さらりと好みを押し付けてみれば、すぐに了承された。さすが女たらし、種類は豊富だ。女で買収しようとするのも南戸らしい。
「アンタのそういうところが人望のなさに繋がんじゃね?」
簡単に買収された自分のことは棚に上げて、坂田はもっともらしいことを言った。確かに、女で買収しようなど人望の欠片もない。逆に最低だ。
「そうだな・・・・・よし、自力は諦めた」
ぐしゃぐしゃになった髪を掻き上げながら、南戸はきっぱりと言い切る。
「人望なんざ自分じゃどうにもならねえ。坂本のおかげで上がった生徒会人気に便乗して、人望のおこぼれもらうことにするわ。生徒会入ってて良かったって思ったの初めてだな」
どこか晴れ晴れとした笑みを浮かべて青空を眺める南戸。真っ青で高い空。空気が澄んで清々しい。絶好のサボり日和だ。
「女んとこ行くけどお前も来るか?」
「めんどくさい」
「あっそ。じゃあ独り占めだな」
「いってらっしゃーい」
機嫌良く立ち上がった南戸を見ることなく、坂田はどうでもよさそうに煙草をふかしながら遠くなる背に手を振った。
サボりは屋上にて
2013/09/11
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