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口付けが深くなったのはいつ頃だろうか。

妙の細い指が沖田の唇をなぞる。
少しだけ開いた隙間から中に入ると、柔らかな感触が指先にひろがった。
沖田の赤い舌先が、妙の指に絡まり這いまわる。
爪も関節も指そのものが、滑らかに侵されていった。
徐々に水分を含み、秘め事のような音が響く。
目を閉じて耳をすませば、聴覚が侵されていく。

一つ、一つ、ズルリと抜けば艶やかに光り、名残惜しげに赤が絡みつく。
暗闇の中、確かに存在する温かな感触。
重さを感じて熱が伝わり、外側も内側も覆いつくされた。

視線を絡ませる。
その湿った瞳が心を捕えて離さない。
視覚までもが侵されて、後には何が残るのか。

「―泣いてやせんか」

薄い色がゆれる。
涙がこぼれた。

「―貴方もね」

混じった涙が妙の頬をつたい流れる。
沖田の指が妙の目じりをなぞり、そこに口付けをおとす。合わせるように妙は目を閉じた。

「―秘密ですぜィ」
「…貴方が泣いたこと?」
「二人が泣いたこと」
「どうしようかしら…」

妙がくすりと微笑むと、沖田はそれに唇を寄せた。
熱さを舌で感じる。

「足りないって思いやせんか」

うわごとのように沖田は呟いた。

「きっと― 姐さんを食べても足りない」

妙の生白い首筋に甘く歯をたてる。

「じゃあ― ずっと食べ続けたらいいわ」

あやすように色素の薄い髪を優しく撫でながら、妙は言った。
足りないなら足りるまで。
欲しければ欲しいだけ。
侵食し混じり合い、いつまでもいつまでも。

沖田は少しだけ噛み跡の残る妙の肌を舐め、赤い痕を残した。

「― 約束でさァ」

妙を瞳に映すと、あどけない幼子のような笑みをうかべた。

心は既に侵されていた。


『深淵にて僕等は混ざる』
title/DOGOD69
08.05.01

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