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あの人は自分以外の誰かを選ぶのだと、近藤は心のどこかで思っていたのかもしれない。
きっと連れ添うことはないのだと、それでも自分はこれからも妙を追い続けてしまうのだろうと。
そう思っていた。

「お妙さんのことは一生好きです。それは変わらない自信があります」

いつもなら話し半分で流される台詞。
近藤を見つめたまま、妙は笑っていない。
それが少し寂しくて、少し嬉しかった。

「あの日、お妙さんに会えて良かったと心底思います。出会えてなければ、もしかしたら今ここに俺はいないのかもしれない」

妙に出会って、それまでとは違う歯車が回り始めた。今では腐れ縁となったあの侍達との出会いのきっかけも、元を辿れば妙なのだ。

「こんなに惚れ込んだのは初めてで、どうすりゃいいのか分からなくて、お妙さんに迷惑ばかりかけちまって」

本当にすみませんでした、と頭を下げる。
顔を上げたとき、妙は小さく頷いて、やわらかに微笑んだ。
やはり笑った顔が好きだ。見つめて思う。いつまでも眺めていたいと。できれば許される範囲で、少しでも彼女に近い場所で。

「俺はお妙さんが大好きです」

変わらない想いと変わる環境。二人が今までと同じでいられる時間はあと少し。

「お妙さんの傍らで、お妙さんを護っていたかった」

それはもう自分の役目ではないのだと、自分自身に言い聞かせる。
言葉が続かなくて、近藤は苦笑いを浮かべた。
言いたいことが多すぎて伝えきれない。
あれだけ溢れていた愛の言葉はもうどこにもなくて、ただ目の前の彼女を見つめる。

「俺の恋は終わりました」

するりとでたのはそんな言葉。
終わった。終わらせた。募る想いは抱えたまま、一方通行の恋に終止符を打った。でも。

「お妙さん」

近藤は迷いのない視線を妙にぶつける。
恋は終わらせた。
終わらせたけれど、諦めたくはなかった。

「今世は諦めます。でも来世は俺と結婚して下さい!」

妙の両目が大きく見開かれる。ぽかんとあいた口から戸惑いの声。まさかの予約プロポーズに妙は何度も瞬きを繰り返す。

「俺はやっぱりお妙さんと結婚したいです! でも今の人生じゃ無理なのは理解してるので、来世でお願いします! 頑張ってお妙さんと同じ種族に生まれ変わりますから! それも無理ならせめて来世も出会いたいです!!」

人間同士がベストだが、生き物だったらこの際なんでもいい。また会えるなら無機物でもいい。妙がどんなものになっても気付ける自信があった。
その逆で自分だけが人間以外だったとしても、妙といられるならそれでいい。花なら妙の傍らで咲いて、鳥なら妙の肩に乗って、石なら妙に遊んでもらおう。

「───ほんとに、あなたったら」

呆れたようでどこか愉しそうに見えたのは近藤の欲目かもしれない。
滲む視界に映る笑顔が綺麗だ。
ほんの少し、泣けてきた。
ああ、本当にさよならだ。
本当に大好きだ。


二人が今までと同じでいられる最後の日。
彼は一生に一度の恋を終わらせた。



俺の恋は終わりました

2019/05/25
2023/05/26一部加筆修正


********
近藤さんはずっっと姉上を好きでいてくれるだろうと勝手に思っていたので、本編でゴリラ姫と結婚した近藤さんを上手く飲み込めなくて、自分で自分を納得させるために書いたものです。

まあ、本編では結婚なくなりましたけど(笑)

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これ出してなかったですよね。
近藤さんが(上からの命令で)誰かと結婚する場合と、姉上が近藤さん以外と結婚する場合と、どちらにも読めるように書いたつもりです。結果は同じなので。恋は終わらせました。
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