※淡々とした話が唐突に始まり唐突に終わります。
「どうして?」
今にも泣き出しそうな顔で、あの女は俺を責めた。
「どうしてそんなこと、急に・・・そんなこと」
お妙の口元にはかろうじて笑みが浮かぶ。見てるだけで胸糞悪くなる、嫌な笑い方だ。そんな顔するくらいなら泣けばいいのに。どうせ上手く笑えてやしねえのにな。
「お前さ、こんな時まで嘘吐かなくていいんじゃね」
馬鹿馬鹿しくて思わず笑っちまった。自分の感情を取り繕うことに慣れた女が、感情を堪えきれなくなってやがる。
「お前、気付いてたろ?」
怯えと怒りをこめた瞳を向けてくる女に、言われたくないであろう台詞をわざと言ってやった。
「俺がお前に惚れてるって、気付いてたろ」
気付いてるのに気付いてないふりをしてたろ。もうずっと前からそんな感じ。
「気付いてねえどころか、無かったことにしようとしてるしな」
ああ、図星だったな。震える唇から否定の言葉が漏れちゃいるが、その顔は誤魔化しきれてない。
「俺がお前に惚れてたら都合悪い? お前の世界が壊れるって感じ? じゃあ悪いけど一回壊してもらっていい?」
お妙が息を飲んだ。信頼してた男に弱味を引きずり出された気分はどんな感じ?
「お前の創り上げた世界で俺がどんな配役か、まあ分かってるけどね」
へらへら笑ってる俺と、表情をなくしたお妙。酷いことしてるなとは思うが、酷いことならお互いさま。お前も相当酷いよ。
「・・・どうして私なんですか」
「さあね。俺が聞きたいっつーの」
「それなら・・・無かったことにできませんか」
「・・・へえ?」
声に笑いが混じる。もう笑うしかねえよ。
「無かったこと、ね。それで元通りの銀さんねってことか。最初からそんなのは無かった、私の銀さんは私の思っていた通りの銀さんでしたーって?」
だからお前は、俺の気持ちに気付きながらそんなものは無いと否定した。受け入れることも理解することもせず、消してしまおうとした。
「ほんと、ひでえ女」
お妙が俯いた顔を両手で覆う。傷付けている自覚はあった。こいつがひでえ女なら、俺はサイテー男だろうな。分かった上でやってんだから。
お前が俺をどう思ってるのか、俺にどういう役割を求めてるのか。
ただ、俺がそれに付き合い続けてやるほど優しくなかったってだけ。
「・・・それでも、銀さんのその気持ちを、無かったことにしてほしいって思ってます」
そしてお前は、やっぱりひでえ女だってだけ。
そんな女に惚れたオレが馬鹿だってだけ。
「お前のそれは、俺に死んでほしいって言ってんのと同じだからな」
覆われた手のひらの中に女の泣き顔があるって信じたい。
じゃねえと俺、救われねえだろ。
2014/08/10
姉上は自分の世界を護るのに必死で銀さんと向き合うことができず、銀さんはそれを優しく見守ってやらなかった。そういう話です。
救われないね。
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