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「お前、あの女はどうするつもりだ」

携帯を机に置いた土方が煙草に火をつけた。
問われた山崎は「女ねえ・・・」と首を傾げる。

「誰かいましたっけ」

土方は軽い口調の男を一睨みし、煙草をふかした。

「お前が利用した女だよ」
「利用って」

山崎が苦笑いを浮かべる。

「任務を速やかに進ませるために必要な仕事でしたからね」

だから悪気があってやったことではないのだと山崎は言外に匂わせが、土方の視線は鋭いままだ。

「女と寝てその気にさせるのが仕事か」
「ですがね土方さん。首謀者の男が愛妾の家に隠した計画書を手に入れる、というのが俺の任務でしたでしょう?そうなると、俺がどういう手段を使って手に入れるのか、副長はご存知のはずですがね」
「存じてねえよ」

間髪入れずに否定した土方は、時計に目を走らせる。時刻は午前一時を回った頃だろうか。

「まあいい。女には気付かれてないだろうな」
「もちろん。そんなに心配ならその女を消してきましょうか」
「馬鹿か」
「冗談です」
「くだらねえ。計画書に細工は」
「してますよ。多少こちらの都合のいいように書き替えた偽物を置いてきました。筆跡は似せましたし、今、奴らは計画を成功させるという興奮状態ですからね。まあ、気付かないでしょう」
「そうか。それでいい」

微かに頷いて、土方が再び煙草に口をつける。
色々と問題はあるのだが、土方は山崎の能力を高く評価していた。だからこそ直属の部下として使っているのだ。
眉間に皺を寄せたまま、白い煙を深く吐き出す。

「言いたいことはクソ程あるが今更言っても仕方あるまい。お疲れさん。後でまた連絡する」

そう言って、話は終わりだとばかりに煙草を消し潰した。灰皿には吸殻が山をつくっている。近藤の留守中に今回の件が判明し、その心労から煙草の本数が増えているようだ。
上司の合図を受け、山崎は一礼をし立ち上がる。任務は終了だ。
軽く挨拶をして襖に手をかけたとき、「山崎」と呼び止められた。
少し間をあけて山崎は振り返る。

「なんですか」
「あの女とはどうなっている」

土方は机の上にある書類に視線を落としたまま山崎に問いかけた。どこか刺のある口調で、問いかけるというより軽い尋問のようである。
土方の言う「あの女」
それが先程話題に出ていた女とは違うとすぐに理解できた。そして、それが誰を指しているのかも。

「どうもこうも。何もありませんよ」
「手を出すつもりじゃねえだろうな」
「さあ」

山崎が肩を竦めて笑う。

「手を出したらどうなるんです?」
「あの女は近藤さんが惚れてる女だ」

そう言って、土方は顔を上げた。二人の視線が真っ直ぐにぶつかり合う。

「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ」
「だから手を出すなと。副長も随分と心配性ですね」

そこまで言って山崎は一旦言葉を区切り、「でも」と意味深に繋げた。

「土方さんが心配してるのは、本当に局長のことでしょうかね」

口調は和やかなまま、はっきりと言い切る。それは山崎が前々から感じていた疑問だった。
投げかけられた言葉に土方の表情がより険しくなる。その表情は怒りにも似ていたし、戸惑いにも似ていた。

「どういう意味だ」
「そのままの意味ですよ」

暫しの沈黙が室内を支配する。

「・・・油断ならねえ鼠だな」

先に動いたのは土方だった。隊服の懐を探り煙草を取り出し、書類によって机の端に追いやられていたライターを手にとる。

「面倒な男だよ、お前は」
「あれ?図星でしたか」

山崎がわざとらしく目を丸くした。それを見て、土方は鼻先で軽く笑い、新しい煙草に火をつける。

「それって監察方としては優秀だってことですよね」
「余計なもんまで探ろうとしなけりゃな」
「すみませんね。仕事柄、好奇心旺盛なもので」
「で、その旺盛な好奇心で女を食いまくってるわけか」
「でも俺、本命には慎重派ですよ。副長も言ってたじゃないですか。何事も適材適所・・・でしたよね?」
「・・・馬鹿馬鹿しい」

吐き捨てるように呟いた土方は、吸殻だらけの器に灰を落とした。


2010.09.18

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