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「―――山崎か」

僅かに開いた襖の隙間から伸びた影を見て、土方は表情を変えることなく呟いた。

「状況は」
「任務完了です」

簡潔に返ってきた言葉に土方は視線を上げる。

「手に入ったのか」
「こちらに」
「入れ」

スウッと開いた襖の間から黒装束の男が滑り込んできた。まるで影がそのまま人型になったような姿。
山崎と呼ばれた男は、土方の前に姿勢を正し座る。そして、懐から小さく折り畳まれた紙を取り出し、土方へと差し出した。静かな室内に紙の擦れる音が響く。
そして、その音が止んだ。

「――――奴ら、これをいつ実行するつもりだ」
「明日の夜明けと共に」

皺くちゃな紙を睨むように見ていた土方が舌打ちをする。

「時間がねえな」

吐き捨てるように呟くと、ふっと紙から視線をずらし瞼を伏せた。

「人数は」
「二十人程集めているようです。ほとんどが侍くずれの連中で、多少は腕が立つかと」
「多少か」

土方が鼻で笑い、山崎を見やる。

「それは、お前と比べて多少は腕が立つということか」
「はい」
「それならば、大した相手じゃねえな」

少しだけ表情を緩めた土方が山崎を一瞥し、携帯を手に取った。

「土方さん・・・それって俺の腕が大したことないってことですか。酷いな」

あまりの言い様に山崎が肩をすくめる。
土方の言葉は、山崎と比べて多少腕が良い程度の者など恐れるに足りないという意味であり、そんな侮辱ともとれる台詞を土方は事もなげに言い放ったのだ。

「お前に刀の腕なんぞ求めちゃいねぇからな」
「まあ、そうでしょうね」
「お前は監察方として、俺の手となり足となり働いていればいいさ」
「なんですかそれ。奴隷ですか」
「近いな」

携帯を耳にあてたまま、土方が口元を笑うように歪める。

「お前が調べたネタを無駄にはしねえさ。ただ、ここから先はお前の出番じゃねえってだけだ」

そう話す土方の携帯の奥から抑揚のない声が聞こえてきた。低いその声は山崎もよく知る少年のもの。

「何事も適材適所だろ」

鬼と評される男の瞳がぎらりと光った。


2010.09.17
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