「俺と志村さんってそろそろな感じがしやせんか?」
沖田の言葉はどこか曖昧で、その実、確信に満ちていた。
「そろそろ、ね」
その意味に気付いた妙だったがわざと気が付かないフリをする。
「志村さんもやりたいって思ってねえですかィ?」
ああ、やはり。
妙の予感は的中した。
沖田の真意も望みも分かっている。
つまり、そういうことだ。
「特に思わないわ」
「本当に?」
「ええ、本当よ」
薄茶色の瞳に別の色が混じっているのが分かる。
二人の距離はそれほど近いのだ。
例えば、重なり交じり合ってしまいそうなくらい。
沖田の色が少しずつ淡くなるように感じられた。
それは欲の色だろうか。
内心、妙はひどく怯えていたのかもしれない。
しかし、それ以上に安心もしていた。
沖田の答えは分かっているし、充分すぎるほど知っているからだ。
沖田が妙に向ける愛情の深さを。
「……もう少し我慢しやす」
沖田が溜め息を吐いたのと妙が微笑んだのは、ほぼ同時だった。
「それがいいわよ。約束を忘れないでね」
沖田の力が弛む。
やはり妙には適わない。
冷静になったところで、改めて妙との距離を確認してみた。これは「押し倒して組み敷いて」という、いわゆる青少年の夢のポジションだ。
少し乱れた妙の髪も制服も息遣いも、沖田を刺激するには充分すぎるものだろう。しかし、できない。
妙をその場に縫いとめるようにじっと見つめた。
「じゃあ、代わりに。今日は志村さんからね」
「……私、から?」
戸惑う妙に沖田は視線を逸らさずに言い放つ。
「キスして」
「……私から…?」
「そう。でも、それだけじゃあ足りねぇですぜ」
「それ以上何を足すのよ」
妙が訝しげに沖田を見上げる。
「舌、いれて」
沖田が屈託のない笑顔を浮かべた。
「いつも俺からだし、たまには志村さんに迫られてェなぁって」
かなり本気らしい。
それは、沖田の目が笑ってないことでも分かる。
「…頼まれてするものじゃないわよ」
取り敢えず、妙は拒絶の言葉を伝えてみるが、
「はーやーくー」
という、悪魔のような無邪気な言葉で却下された。
「…本当に意地悪ね。沖田くんって」
「志村さんが大好きなだけですぜ?」
沖田が掠めるだけのキスを頬へと落とす。
「あー、我慢できねェ。そろそろ襲っちまいそーだ」
妙の鼻先に噛み付きながら笑う。
沖田の言葉に嘘はないのかもしれない。
普段とは違う雰囲気を、沖田の声や仕草から感じた。
「……するから、目、閉じてよ」
小さな声で呟いた。
「志村さんも」
沖田はそう言いながら妙の隣に寝転がる。
向かいあわせの二人。
沖田がスカートの上をなぞり裾からのびた脚を触る。
そのまま中に手を這わせて、太股に優しく爪をたてた。
「このまま襲ってもいいですかィ?」
囁かれ声は、言葉とはうらはらに優しい。
「ダメよ」
「やっぱり」
妙の予想通りな答えに、沖田が表情を弛めた。
「…信じらんない」
妙が乱れた制服を整えながら、沖田を睨む。
「や、それは……志村さんの馴れてない感じにS心を刺激されたというか」
「だからって、」
妙が沖田の手にある制服のスカーフを奪い取った。
「これで縛ろうとするのと、どう関係があるの?」
そう、つい悪戯心がでてしまった。
深いキスの間、苦し気な妙の声が洩れ聞こえるたび、その声をもっと聞きたいと思ったのだ。
そう思うともう止まらなかった。
「いやぁ……なんでですかねィ…」
精一杯、誤魔化してみる。
妙を縛って動けないようにしてから、あれやこれや……などと正直に話せるワケがない。
「でも、これだけは信じてくれやせんか」
「……なに」
沖田は妙を真っ直ぐ見つめる。
「志村さんがいいって言うまで、縛っても、脱がしても、絶対挿れねェから」
「それで?」
「……ごめんなさい」
妙の冷たい視線に耐えきれず、沖田は視線を床に動かした。一体いつまで我慢できるだろうか。まだまだ先は長いのだ。
「ハグしたらキスしたらその後は」
title/DOGOD69
2007.9.21
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