授業と授業の合間。
楽しそうな輪の中で、そこだけが異質に見えた。
原因は分かっている。
妙の隣で笑うクラスメイトを、沖田は無表情に見つめていた。
気付いたのは偶然だったのかもしれないし必然だったのかもしれない。
それは沖田にも分からないが、その視線が気に入らなかった。
一段と大きくなった笑い声に視線を移せば、そこに溶け込む妙と目が合った。
黒目がちな瞳をパチパチと瞬かせたあと、少し照れたような表情を浮かべながら微笑む。
先ほどまでのどす黒い感情は一瞬で消え去り、つられて僅かに口角を上げれば、妙は嬉しそう笑った。
その瞬間だった。
あの視線を見つけた。
そしてすぐに理解する。
それは沖田が妙と話している時や歩いている時、いつも感じる視線と同じものだった。そして、その視線は妙のすぐ隣から放たれているのだ。
沖田は無意識の内に目を逸らしていた。
別に嫉妬しているわけではない。心配もしていない。
ただ、妙があいつを男として見てはいないが、あいつは妙を女として見ている事が気に入らなかった。
あいつの妙に向ける視線が気に入らない。
きっと今も傍で見ているのだろう。
沖田が恋する、志村妙を。
放課後の廊下で、触れ合った唇が離れる。
「……ねえ」
「何?」
ほとんど触れたままの距離で二人は話し続けた。
「わざとでしょう」
「……何が」
沖田はそっけなく答える。
「あの人が見てるのに、わざとキスしたでしょう」
妙の瞳は真っ直ぐに沖田を捕らえる。
バレてたか、と心の中で呟き、沖田は肩をすくめた。
あの時、ちょうど角を曲がって来るのが分かった。
あいつだと分かった。
だから妙を引き寄せた。
「何故そんな事をするの?」
怒るというよりも不思議そうな表情。沖田の行動の意味が分からないのだ。
そりゃそうだな、と沖田は思う。沖田自身、よく分からなかった。
「……なんでかねィ」
しかし遠ざかる足音を聞きながら、その音が小さくなっていくにつれて、胸の中にあるモヤモヤが晴れていくのを感じていた。
あいつの視線が気に入らないわけが分かった。
あれは、自分なのだ。
自分が妙にむける視線と同じなのだ。
「難しい顔してる」
「俺ですかィ」
妙が沖田の頬に触れる。細い指の感触が心地良い。
「何か難しい事でも考えてるの?」
「あー、いや。簡単な事」
自分の頬にある妙の手を掴み、ぎゅうっと握る。
「どんな?」
「志村さんが好きって事」
その手にそっと口付けた。
好きなのだ。どうしようもないほど好きなのだ。誰かが妙に恋愛感情を含んだ視線を向けるのが気に入らないほど。
「聞き飽きたわソレ」
「じゃあ、もう言わねぇ方がいいですかィ?」
「もっと言ってほしい」
妙は沖田の手を握りかえし、おかしそうに笑った。
「本当は、あの人に妬いたんでしょ?」
悪戯っぽい瞳に沖田が映る。
「……バレてやしたか」
繋いだ手に力をこめた。
そこにある確かな感触を離したくないと思う。
「志村さん」
「ん?」
「俺以外の奴と、あんまり楽しそうにしねぇでくれやせんか?」
拗ねたような沖田の言葉に妙は目を丸くする。いつもは飄々として、ほとんど感情をあらわさない彼だからこそ驚いたのだ。
そんな自分が恥ずかしいのか、妙から目線を逸らす沖田。
妙は返事をする代わりに沖田の頬に顔を寄せ、優しく口付けた。
「僕らは不平等」
title/DOGOD69
2007.9.21
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