「沖田くんって私のこと好きでしょう?」
「志村さんが俺を好き、の間違いじゃあねえですかィ?」
問い掛けた言葉をそのまま返されて、そんな沖田の態度に妙は柔らかな笑みを浮かべた。
がらんとした教室に、二人の声だけが流れる。
誰もいない、二人きり。
空間に響く声は自然とひそめられていた。
「あーあ」
「どうしやした?」
「余裕があるみたいで、なんかイヤだわ」
「余裕なんかあるわけねェ」
沖田が妙の頬に触れる。
撫でるように優しく優しく触れていく。
名残惜しげにその手が離れると、妙は沖田の背中に顔を埋めた。
隙間もないくらい抱き締めれば鼓動が重なる。
華奢な見た目に反し、しっかりとついた筋肉が妙との違いを感じさせた。
異性なのだと思った。
「ねえ、こうやってたらドキドキする?」
耳元で笑うように囁く。
「いや、ムラムラする」
顔は見えないが笑っているのが分かった。からかうように即答した沖田を妙は軽く睨む。
「やらしいわね」
僅かに離れた距離を埋めるように沖田が顔を寄せる。
「好きな女に抱き付かれてるんですぜ?やらしい事しか考えらんねーや」
「沖田くんの考えてるやらしい事ってなに」
「そりゃあ……」
沖田はそこで言葉を区切ると、妙の腕を優しく解いた。
そのまま体ごと妙の方を振りかえれば二人の身体は向かいあい、至近距離で視線が絡まった。
「目を閉じたら分かりやすぜィ」
「……本当かしら」
沖田は妙の細い腰に腕をまわし、ぐっと抱き寄せた。先ほどよりも近づく距離。
「ねえ、沖田くん。そこを触られるとくすぐったいんだけど……」
「我慢してくだせィ。俺だって色々と我慢させられてまさァ」
腰にある手に力がこめられた。離す気はないらしい。
「我慢じゃなくて約束でしょ」
「約束ってより拷問ですぜ」
そう言って、沖田の額が妙にコツンとあたる。
「だから、キスくらいは俺の自由」
いつもの無表情は消え、柔らかに微笑む沖田。年相応というよりも、どこか幼い笑顔。この顔に妙は弱い。そしてそれを沖田は知っているのだ。
妙は一瞬だけ目を伏せ、すぐに顔をあげた。白い頬は赤く染まり、困ったように笑っている。
「キスだけよ?」
「今はそれで充分」
妙以外には決して見せない笑みを浮かべながら、まわした腕に力をこめて大切な人を抱きしめる。
誰もいない教室で、二人のの鼓動が重なった。
「桃色の頬にくちづけを」
title/DOGOD69
2007.9.21
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