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※高杉さんが病気設定の高妙です。苦手な方はお気をつけください。












それはいつも突然で。
まるで焼かれるかのような痛みが襲う。
胸元を掻きむしり蒲団を握り締めながら、その痛みに耐えるしかなかった。
温もりが残る桜色の着物に手を伸ばす。
掴む指先が白に染まった。






形容しがたい温度で、

いちばんの奥で。







「どうした?病気みてぇな顔だな」
「病気なのは貴方です」

妙がそう言い返せば、「口の減らねえ女だ」と高杉は笑った。

掃除の行き届いた和室にある一組の蒲団。
高杉はその上に片膝を立てて座り、妙はその横で背筋をピンと伸ばし座っている。
湯気があがる湯呑みを乗せたお盆が、枕元に置かれていた。

「酒じゃねえのか」
「お酒で薬は飲めないでしょう」
「薬なんざ飲まねえよ」

先程までの苦し気な表情が嘘のような態度に、妙は溜め息をついた。

「子どもみたいなこと言わないで下さいな」
「子どもねえ…」

高杉が口端を上げ、妙の手をとる。

「どうしましたか?」
「薬はいらねぇ」
「また、貴方は……。治るものも治りませんよ」

そう言って眉を寄せる妙を抱き寄せ、そのまま押し倒した。

「薬じゃなくて、お前をくれよ。お前がいい」

自分の下にある首筋に顔を埋める。

「お前を抱かねえと眠れねぇんだ、妙」

額に唇で触れたあと、そっと離れて言った。


妙は高杉の胸元に視線を移し、そこを指で触れる。
はだけた着物から見えるのは、骨がうかぶ薄い胸。
いくつもの傷痕より、筋肉が削ぎ落ち痩せ衰えた身体が痛々しかった。
それは病に蝕まれた証。
青白く乾いた肌を慈しむように、指を這わせる。

「死にそうだろ?」

高杉の声に、なぞる手が止まった。

「痛くて飯も食えねぇ」
「……」
「最近じゃあ薬も効かねぇ」
「……」
「死にたくはねぇが、もう死にそうだ」

その言った瞬間、妙の黒い瞳が高杉を映した。

「それ以上言わないで。怒りますよ」

言葉とはうらはらに優しい口調で微笑む。

「怒ればいい。怒鳴って、喚いて、罵ってくれ」

高杉は目を細め、心底楽しげに笑った。

「叫んで、泣いて、喘いで、笑ってくれ。俺に全部見せてくれよ。なぁ、妙ェ」

耳元で囁いて、そこに唇を寄せて、妙の名前を呼びながら抱き締める。
何度も何度も「妙」と繰り返しては、その温もりを確かめるように頬を寄せた。

「困った人ですね」

高杉の髪をゆっくりと指で梳きながら、妙は嬉しそうに、くすぐったそうに微笑んだ。

「随分と髪が伸びてるわ。薬を飲んだあと切りましょうね」
「酒がいい。口移しで飲ませろ」
「本当に……困った人」

ふふ、と笑う妙に高杉の影が重なる。
ぬるりとした感触が隙間を越えて交わった時、僅かな血の味が口内に広がった。





「………」


遠退いた意識に光が差し、すずやかな声が耳に届く。
思考ははっきりするが、返事はできなかった。
言いかけた言葉は最後まで発せられずに途切れる。
陶器の割れる音と共に、畳に広がる温かな液体。
顔色を変える妙を、どこか夢心地で眺める。

ああ、綺麗な女だなァ。
と、焼け付く痛みの中で微笑んだ。

柔らかくて、温かだった。


『形容しがたい温度で、いちばんの奥で。』
Title/00

2008.08.26.




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悲恋のように見えるかもしれませんが、テーマは甘えん坊晋ちゃんです
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