ワオ!2013妙誕記念アンケート! | ナノ


▽ 鬼の副長を書くつもりがただの鬼になりました。鬼(土方)→妙


──ねえ、また鬼がでたんですって。
──まあ!恐ろしい。
──狙われたのはまた若い女らしいわ。
──最近続くわねえ。でも決して命をとらないだけ救いかしら?
──何言ってるのよ!命はとらない代わりに、血をとるのよ!




「痛っ、」

妙は眉を寄せる。反射的に引っ込めてしまった手を確認すれば、小さく溜め息を吐いた。指先から赤い血が滲み溢れている。どうやら、ささくれた木の枝で指を切ったらしい。切るだけなら良いが、痛みがひかないところをみると、小さな木屑が皮膚に刺さってしまったようだった。

「もう・・・こんなときに・・」

妙が顔をしかめる理由は痛みだけではない。それ以上に面倒で恐ろしく、心底嫌な理由があるからだ。
一瞬迷い、血で濡れた指先を薄く開いた口にもっていった。下唇にのせ、そろりと舌で舐める。血の味と、傷口に痛み。血も痛みも、彼が好きなものだった。

「───いいもん舐めてんじゃねえか」

妙は目を見開いた。気配がする。もうすでに傍まで来ている。逃げる間もない。

「どこに行く」

じりじりと後退りしていたことにも気付かれた。ならばもう諦めるしかない。

「手当てをしないと。このままだなんて嫌だわ」
「何が嫌なんだ」

そこから見えるだろうに。見えてるくせに忌々しい。妙は多少投げやりな様子で手のひらを前に掲げた。

「血が出ているのよ。あなたお好きでしょう?女の血が、特に」

指先から滲んだ血が、つうっと指を流れ落ちた。

「──もったいねえ」

風が起こる。彼が動くと風も動く。思わず閉じた瞼を開いたとき、目の前に真っ黒い男が居た。

「捨てるならくれよ」

妙の返事も待たず、黒髪の男は妙の手首を掴む。人と同じ五本指だが、爪は鋭く伸びている。自分の口元まで妙の手を引き寄せて、ニヤリと笑った。

「死ぬほどとらねえよ」

尖った歯が見えた。耳も大きく、額から2本の角が生えている。そうだ、彼は鬼なのだ。
長い舌が血を舐めた。巻き付くように舌を這わせ、1滴残らず味わおうとする。舌がわざとらしく傷口をつついた。

「っ!、」

声をださなかっただけ誉めてほしいと妙は思う。痛みに叫ぶ声はこの鬼の大好物だ。

「木の皮で皮膚が裂けたのか」

舌がぐりぐりと傷口を押す。大した傷ではないが、こんなことをされたらたまったものではない。痛みに耐えて歯を食い縛る。

「我慢すんなよ。どこが痛い?」

言えばそこを攻められる。痛いと言わせたいからだ。

「痛みより、気持ちが悪いわ。止めて下さらない?」

精一杯の強がりで虚勢を張る。しかし鬼は動じない。微かに目を細めて、指を食べるかのように唇を押し当てた。指に痛みが走る。鬼の喉がこくりとなった。

「ごちそうさん」

鬼は僅かに残った血の痕を美味しそうに舐め上げて、妙の手首を解放する。解放されたのは手首だけ。どうせ逃げられない。逃げたところですぐに捕まるだろう。それこそ次は解放されないかもしれない。

「鬼は人間を殺すものだと思ってたわ」
「殺してどうする。食い物が減るじゃねえか」

黒い着物の上に黒い布を纏った鬼は、さも当たり前のように言い放った。

「俺達・・・といえる程に他の奴らとの付き合いはねえが、鬼にも色んな奴らがいる。人間みてえにな」
「人間は人間を食べないわ」
「共食いなんざ俺もしねえよ。他は知らねえが、俺は人間なんか食わない」
「代わりに血を飲むのね」

黒い鬼が、少し違うと肩を竦めた。

「正確には体液だ。人間の体液が栄養になる。それだけでは腹を満たせやしねえが、必要な分だけいただけば生きていけるからな」

この鬼が人間を殺さないのは食糧が減るから。血を飲むのは栄養がそれでしか摂れないから。それはつまり、と妙が鬼を見据える。

「あなたは生きたいのね」

黒い鬼が笑う。

「死ぬために生きる馬鹿がいるのか?」

鬼の目を初めてまともに見たのかもしれない。妙は吸い込まれるような感覚に戸惑った。
鬼の目は、人間によく似ていた。

「──そろそろ潮時か」

鬼が不意に顔を逸らす。

「ここらも鬼のままでは生きづらくなった。人の噂というのは面倒だな」

横顔も初めて見た。顔だけなら人間の男とかわりない。若い女が彼に近付かれるまで抵抗しない理由が分かる顔立ち。

「どこかへ行くの」
「鬼が眠るだけだ。どこにも行く気はねえよ」

ゆっくりと顔を向けた鬼が、妙の頬に触れる。

「何度も血を欲した女は、お妙さん、お前だけだ」
「それは嬉しくありませんね」

尖った爪が頬をなぞっていく。それが鼻先を掠め、手のひらが目元を覆うと、妙の視界が黒く染まった。

「お前のならどんな体液でも美味そうだが、今は諦めるとしよう」
「今は?」
「ああ。鬼とはここでお別れだ。次は───」

鬼の低い声が鼓膜だけではなく脳内に直接響く。次第に遠くなる意識。唇に何かが触れた気がした。




「すみません」

妙は店の奥で雑談に勤しむ店員に声をかける。そこでやっとこちらに気付いたのか、店員が慌てて店先へと出てきた。

「お妙ちゃん!ごめんなさいね、取り置きしてたのはこれね。袋は分ける?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました。そうそう、あなたも鬼の話を聞いた?」

店の名前が印刷された袋を取りだしながら、店員が妙に小声で話しかける。

「鬼ですか?妖怪とか言い伝えの?」
「違う違う!そっちの鬼じゃなくて人間の方の鬼よ」

「あ、えっと・・・真選組でしたっけ?」
「そう!真選組の鬼の副長土方さん!知らない?すっごい色男なのよ」
「いえ、名前は聞いたことありますけど顔までは」
「今ね、仕事で少し先の店に来てるらしいのよ!見てみたいわー・・・はい、お待たせしました。さっき待たせたお詫びにみかんを入れておくわね」

にこっと人の良い笑顔で袋を差し出す店員につられ、妙の表情も綻んだものになる。

「ありがとうございます」
「ねえ、私の代わりに色男か確認して来てよ!」
「ふふ、そうですね」

妙は笑いながら軽くお辞儀をし、店を出た。
目を向けると少し先にパトカーが見える。確かに真選組が来ているようだ。鬼と呼ばれる真選組の副長。真選組自体が妙には遠い存在で、ましてや副長となると想像すらできない。鬼の副長、鬼の───

「あっ」

ぼんやりとしたまま袋を持ち上げた拍子に、みかんが一個落ちてしまった。勢いがついたのかコロコロと転がっていく。妙が手を伸ばすのより早く、誰かの手がそのみかんを拾い上げた。
妙は目線を少しずつ上げていく。黒い靴、黒い服、黒い髪、そして黒い瞳。

「ぼんやりして歩くなよ」

頭の中が真っ白になった。知らない男が話しかけてきただけなのに。

「あんまりぼんやりしてると、鬼に食われちまうぞ」

真選組の隊服を身に纏った男は、にやりと笑って妙に手を差し出した。

「久しぶりだな、お妙さん。指は治ったのか?」




鬼(土方)→妙
まさかの人外ですよ(笑)
いや、多分鬼の副長ってこういう意味じゃないって分かってる!分かってるけど浮かんじゃったもんは仕方ない。書くしかない!
でも意外と気に入りました鬼土方さん(笑)
一応設定として、鬼の寿命は長いけど栄養は体液からしかとれません。それも限界がある。そういうときは鬼の部分だけ冬眠させ人間になるんです。で、体を万全に戻す。
これからの二人が楽しみですねウフフ!

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