雨オレ | ナノ
- にっき! -





2020 0122

新八と妙「笑い話」

のんびりほっこり過ごす午後。

「姉上は誰が好きなんですか」
「えー、なに? いきなりね」
「まあ気になりますし、暇なんで」

暇潰しに姉の恋愛事情を訊くのもあれだが、わりと気になっているのは新八の本音だ。

「そうねえ、好きなひとね」
「います?」
「ん?」
「いや、あの中に」

あの中、と言えばあの連中だ。はっきりいって顔ぶれは限られている。

「あの中って、随分と限定されるのね」
「他にいないでしょ。逆に僕の知らないひとならビックリですよ」
「そうかもよー?」
「いやいや、ないですって」
「そうかしら」
「そうですよ。好きなひとがいるなら絶対にあの中の誰か」
「えー。じゃあ本当にいたとして、そのひとと結婚したいって言ったらどうする?」
「え!?」
「なに驚いてるの。新ちゃんが言い出したんじゃない」

妙が口元をおさえて笑う。驚く新八がツボに入ったらしい。

「あーそっか、好きならそうだ。姉上が好きで相手も好きならなぜか恋人になって、最悪結婚か」
「さいあく」

妙はたまらず声をあげて笑う。

「ちょっと、ひどいじゃない。あの中の誰かを好きになったら最悪なの?」
「あ、いや、すみません、ちょっと動揺して。寂しいでした。姉上が結婚すると寂しいなって」

いまだに笑う妙は機嫌が良さそうだが、色々と想像してしまった新八は正直複雑だ。
いつかはくる未来。かもしれない。姉の隣に立つ誰かを想像すれば、少し嫌な気分になる。
この話は止めましょう、と新八が云えば、始めたのは新ちゃんじゃない、とまた笑われた。


********

姉上に結婚してほしくない新ちゃん。
永遠に仲良く暮らしててほしい。

あけましておめでとうございます!
久々に書いていたら志村姉弟になってました。





2019 1110

銀時と妙「炙ってみました」

銀時が何か持ってきた。仕事先で貰った違う星の何か。一応食用らしい。
よく分からなくて、妙はとりあえずソレを水に浸けてみた。

「いただいたアレ、後で炙ってみますね」

よく分からない何かだが、せっかくの貰い物だ。なんとかしたい。そんな気持ち半分、暇潰し半分で色々とやってみている。

「ダメなら言ってくださいね」
「いい、いい。好きにやっちゃって」
「そうですか。食べます?」
「いらね」

銀時は興味がないのか妙に任せっきりだ。横になって新八の部屋から勝手に持ってきた漫画を読んでいる。
妙は二つ並べた湯飲みにお茶を注ぎながら、そういえばと呟いた。

「銀さん」
「あ」
「恋人からお手紙を預かってますよ」
「恋人? おまえ恋人いんの?」
「いえ、銀さんの」
「はあ?」

銀時が起き上がると、目の前にお茶が置かれた。

「恋人ってなんだよ」
「恋人って、銀さんの恋人ですよ」
「いねえよ」
「え、じゃああの方は?」
「知るか」
「恋人じゃない?」
「だからいねえって」
「はあ」

おかしいな、とは思ったのだ。なぜ手紙を妙に渡すのか。銀時はこの町に居るのだから直接渡せばいいのにと。
妙のことを知っているくらいだから、ある程度の知り合いなのだろう。しかし直接銀時に会うのを躊躇している。

「銀さん、女性に恨まれるようなことしました?」
「なんで俺のせいみたいになってんの」
「たとえば恋人だと思わせてしまうような態度をとったとか」
「そんなめんどくせえことすっかよ」
「なるほど。めんどくささは実感済み、と」
「おい」

考えても分からないが、銀時にきいても正解はでないような気もする。それならばもう考えるだけ無駄だ。妙は考えることを放棄した。

「まあ、それならそれでいいです。手紙は私が返しておきます。また会えたらですけど」
「捨てりゃいいじゃん」
「粗末に扱うと呪われそうで」
「呪いのアイテム持ち歩く気かよ」
「それもそうですね」

銀時の言葉を信じるなら、妙はあの女性に嘘を吐かれたのだ。手紙に罪はないが大事に扱う義理はない。銀時に話があるなら直接言えばいいし、もしもまた会うことがあればそう伝えることにしよう。
妙はお茶を飲みながらふと考える。

「あの手紙も炙ってみようかしら」
「おまえ暇だろ」
「もういっそ面倒事ばかり持ち込む天パも炙っちゃいたいわね」
「美味しくどーぞー」
「食べません」


********

銀さんの女関係と姉上が絡む話が好きで何回も書いてる気がする(笑)

久々です!
姉上の誕生日お祝いにいっぱい書きたいからリハビリ書き。どうかなー。終わりが台詞なのが私らしいかな(笑)




2019 1006

神威と阿伏兎と妙「生け捕り大作戦」

「この女を生け捕りにしてきてよ」

気まぐれが服を着て歩いてるような上司が見せてきた紙には人間の女が写っていた。
髪と目は黒。整った顔立ちは美人よりで、わりと阿伏兎の好みだった。

「誰だこれ」
「ひみつ」
「で?」
「浚ってきて。なるべく丁寧にね」

人質だろうか。脅迫の材料にでもするのだろうか。そういう面倒事をやるタイプではないが、なにを考えているのか分からないので訊かない。

「めんどくせえな。いつまでですか」
「今すぐ。なんでも早い方がいいよね」
「はいはい。いってきますよ」
「よろしくー。あ、」

名前はタエね、とか何とか言っているのを阿伏兎は聞き流す。覚えたところで、どうせすぐに忘れてしまうのだ。




今の阿伏兎の状況を端的に言うとすれば一言で終わる。
失敗した。

「あー、報告します。女を生け捕りにするのは無理でした」

こんな報告をして自分は五体満足でいられるのか。一発殴られるくらいで済めばいいが、その一発がきつい。しかし嘘は吐けない。

「生け捕りは無理か。ざんねん」

と、少しも残念ではなさそうな声音は神威のもの。阿伏兎の報告に、特に怒った様子はなく、むしろ愉し気ですらある。

「あの子の周り、面白いよね」

神威が目を細める。なるほど、理由はこれか。悪趣味にもほどがある。

「知ってんなら先に言ってくださいよ。無駄に疲れただけじゃねーか」
「いや、誰が出てくるかまでは分かんないし」
「結構顔見知りばっかだったけど?」
「誰に邪魔された?」
「覚えてねえくらい邪魔された」

女をひとり、浚うだけだ。なんの覚悟も用意もいらない簡単な仕事。それなのに失敗した。肩に触れることすらできなかった。

「アハハ、そりゃ警戒されるよ。阿伏兎は見た目犯罪者だし実際犯罪者だし女の趣味悪いし」
「おい、女の趣味は別にいいだろ」
「タエはどうだった」
「いい女だったよ。まあ、相手にするにはちょっと若すぎるが」
「やっぱ趣味悪いな」
「ああ?」
「あいつらも趣味悪いんだよ。バカだから」
「じゃあ、あんたもか。バカだからな」
「アハハ、そーかも。次は俺が行こうかな」

と笑う上司に「あんたもせいぜい邪魔されてこい」と阿伏兎は疲れた様子で返した。


********


姉上の周りはバカばっかですから(笑)
久々に書けそうなのでぽちぽちやってたら出来上がりました。趣味悪くないよ!




2019 0815

神威と妙「嬉し泣き」

「泣いた顔が見てみたい?」

私の? と妙が問うと、神威は軽く頷いた。

「そう、妙の。女を泣かせるのってモテる男の証らしいよ」
「そういうの、興味なさそうなのに」
「単純に妙の泣き顔が見たいかな」
「悪趣味ですね」
「好奇心旺盛なんだよね」

悪意のない顔でこういうことを言うものだから、妙はつい了承してしまいそうになる。

「さすがに泣けませんよ。悲しくないもの」
「他にない? 悲しい時だけ泣くの」
「嬉し泣きとか、あとは感動して泣くとか」
「へえ、嬉しいと泣くんだ。今度やって見せてよ」
「嬉しいことがあればね」

そうは言ったものの、そんな都合よく泣くほど嬉しいことなんてあるだろうか。嬉し泣き自体滅多にないものだ。

「妙を泣かせるのって難しいね」
「そうね。なんでもいいなら泣けますよ」
「あ、ほんと? なんでもいいよ」

神威が頷くと、妙は「ちょっと待ってて」と立ち上がった。
下から見上げる妙はいつもと違う。いつもの二人なら目線はほとんど同じだから、この位置は新鮮だ。妙が大きく見えた。面白いな、と神威は思う。

「これ使いますね」

妙が元の位置に戻ってきた。近くなった顔を確認してから、妙の手にあるものを見た。

「目薬? いつもこれ使って泣いてんだ」
「そんなわけないでしょ」
「冗談だって」

目薬とは思いつかなかった。使わないからかもしれない。しかし泣き顔が見られるならなんでもいい。神威が見たいのは本物の涙ではなく、妙の泣いた顔なのだから。

「じゃあ嬉し泣きでお願い」
「え? 表情もいるの?」
「いるよ」
「一気に難しくなったわね」
「嬉しいと泣く妙が見たいな」

神威は目薬を手に取り、上を向くよう妙を促す。

「なにが嬉しい? 思い浮かべなよ」
「そんな、いきなり言われても」

素直に上を向いた妙は、傍に神威が来ても警戒しない。神威が笑っていても、薬を落とさず、代わりに口づけを落としても。

「あ、嬉しい? 目薬はいらないね」

********

嬉し泣きと言うより驚き泣きかな(笑)
なんか普通にラブいのを書きたくて。
最初は姉上が目薬さして「はい、泣きましたよ」って、さら〜と終わるつもりでしたが、たまにはラブで終わりたいって思って。
ラブで終わってるよね。
もうラブが分からないよ。




2019 0814

土方と妙「バカばっか」

「結婚しないのか」
「どなたのことかしら。土方さん?」
「俺じゃない。あんただよ、お妙さん」

とある金持ち息子の披露宴会場。土方は仕事繋がりの縁で、妙は店の常連繋がりの縁で招待されていた。まさかここで会うとは、と互いに思う。
偶然にも席は隣で、花嫁のお色直しを待つ間、どちらからともなくポツポツと会話が続いていた。

「結婚ねえ。あなたはどうですか」
「そんな気配すらねえな」
「私も同じようなものです」
「そうか」

結婚してもおかしくない年齢ではある。しかしだからといって、時がくれば自然とできるものではない。

「私は好きな人と結婚したいです」
「いきなりどうした」
「でも好きな人がいないんです」
「そりゃ難儀だな」
「初恋の人は半分機械になって星になりました」
「ああ、あの」
「よく接する異性はストーカーゴリラと白髪天パと弟です」
「地獄の三択だな」
「たまに接する異性もバカばっか」
「あんたも同じ穴の狢だがな」
「私を大切に想ってくれる素敵な相手は同性の幼なじみ」
「柳生の跡取りか。確かに一番マシだな」
「この状況でどうやって恋をしろって?」
「俺が知るかよ」

土方は思わず煙草を探すが、ここは禁煙だったことを思い出した。誤魔化すために皿の上の適当なやつを口にする。

「三択なんだろ? 弟は論外、近藤さんも無理なら残りもんしかねえな」
「あら、地獄の三択からしか選べないなんて地獄ね」
「他にもいるじゃねえか」
「いませんよ。バカばっか」
「仕方ねえだろ。あんたがバカなんだから」
「バカばっかに土方さんも入ってますー」
「はあ? 俺のどこがバカだよ」

煙草がダメなら酒でも飲みたい気分だ。この後の任務を考えて控えていたが、土方は迷わず酒瓶に手を伸ばした。

********

結婚なんて欠片も無理そうな二人が書きたかったので満足です。
初恋の人と結婚したかったとしっぽり話す姉上を書くつもりが、最終的にバカばっかと愚痴ってました(笑)





2019 0812

おりょうと妙「私だけに見える彼」

※死ネタですが明るい話です





「ねえ、お妙。後ろに新八くんがいる」

ぽかんと口を開いたあと、おりょうは真っ直ぐ指をさす。

「え、どこ」
「後ろ。ていうか、なんで?」
「なんでって、帰って来たんでしょ」
「いや帰って来るのはいいんだけど、ちょっと早くない?」
「遅いよりいいじゃない」

手にしたアイスクリームなど気にならないかのように、妙はきょろきょろと辺りを見渡す。

「ねえ、どこにいたの」
「だから後ろだって」
「後ろって。大雑把すぎ」
「後ろよ。あんたの肩の後ろ」

そこまで言って、おりょうは改めて新八を見つめる。妙の肩の少し上。

「今年ははっきり見えるわねー。私のお供えの刺激が良かったのかしら」
「だからってグラビア雑誌をお供えするなんて」
「お通ちゃんだっけ。彼女が表紙なのよ。新八くん好きだったでしょ。ねえ?」

空間を見つめながら、おりょうは首を傾げる。

「ほらー! 新八くん頷いてる。やっぱり嬉しかったのよねー」
「新ちゃん笑ってるの?」
「満面の笑みよ。ねえ、次も期待してなさいな」

おりょうがウインクをすると、たまたま妙の後ろを通りすぎていた男が顔を赤くした。

「あら、ごめんなさい。気にしないで」
「どうしたの?」

相変わらず自分の肩辺りを気にしている妙に、なんでもないと告げる。

「そうだ。お妙このあとどうする?」
「うーん、新ちゃんがいるなら万事屋に行ってみようかしら」
「旦那たちに会うの、新八くんも久しぶりなんじゃない」
「今日はみんなにも見えるかしら」
「むしろ私にだけ見えるのおかしくない?」
「普通私よね」
「ねー」
「私、姉上よ? なんで見えないの」
「私は姉の友達よ? なんで見えるのよ」

二人で笑い合って、新八も笑った。
おりょうには見えるから妙に教えて、また一緒に笑った。

********

お盆だなーと思ってたら浮かんできたネタ。
帰ってくるのが楽しみなら、きっと明るく迎えるだろうなと。
それでなんか、姿が見えたら面白いなとか思ったら書いてました。おりょうちゃんにだけ見えるという設定で(笑
爽やかというか、明るいお盆話が書きたかったので満足です!





2019 0811

神楽と妙「うたかた」

暑くて溶けてしまいそうと、姉と慕うひとが呟いた。

「アネゴ」
「なあに」
「これが夏アルか」
「夏かしらね」

うちわから生まれる風が神楽の睫毛を震わせる。

「もっと扇いでほしいネ」
「そうね」
「太陽は苦手アル」
「あらあら」

兎さんは大変ね、と笑う。
少し強くなった風は神楽の前髪も揺らした。

「アネゴは涼しそうアル」
「そう?」
「汗かいてない」
「そうでもないわよ」

ほら、と妙の顔が大きくなる。
間近で見る肌はきめ細かく、真白い肌は桃色に火照る。

「汗、かいてるでしょ」

面差しは微笑んだまま、神楽の手を頬にあてる。

「そこじゃ分かんないアル」
「神楽ちゃんはおでこに汗かいてるのね」
「アネゴは」
「私もそうよ」

顔がもっと近くなり、自然と瞼が降りる。額と額が合わさる。汗をかいているはずなのに、触れ合った肌はひんやりとしていた。

「アネゴは冷たいネ」
「神楽ちゃんはあったかい」

目をあける。少し離れた場所で、黒が多めの瞳がこちらを見ていた。

「暑いときはアネゴにくっつくアル。寒いときは私にくっつくネ」
「じゃあ今日は神楽ちゃんがくっつく番ね」
「もうくっついてる」
「ふふ、そうね」

うちわの風が心地よい。
妙との隙間に風が通る。
無意識に冷たい肌を探る。
涼しくて、また目を閉じた。

********

この二人の間にあるふわふわした感じが好きなんです。アネゴの前だと女の子になる神楽ちゃんが好きで、そんな神楽ちゃんを甘やかす姉上が好きです。わたあめみたいな雰囲気。そこに百合パウダーを少しまぶすのが好き(笑)




2019 0811

ホストの金さんと妙「妙ちゃんのたま」

※少し下ネタあり




「なあ、わかる? パンパンなわけよ」
「風船でも膨らませました?」
「いや俺のきんたまがパンパンっつー話」
「真面目にきいて損した」

妙はちゅう、とストローを吸う。今日はパック野菜ジュース。最近疲れがとれない気がする。

「おいおい、なにまったり野菜チャージしてんだよ。彼氏が大事な相談してるとこだろ?」
「彼氏じゃないし。そもそも私に関係ないし」
「いやいやいや。金さんのきんたまは妙ちゃんのきんたまでもあるじゃん?」
「そんなたま持った覚えがありません」

急に何を言い出すかと思えば、と呆れ半々慣れ半分。いわゆる下ネタなのだろうが、このホストは当たり前のように口にするので妙の反応も薄い。いまさら玉くらいで動揺しない。

「たまパンパンになってんのお妙ちゃんのせいですけどー。最近出してねーから溜まって溜まって」
「出せばいいんじゃないですか」
「酔って帰って抜くのしんどい」
「知りませんよ」
「最近酒はいると起たねえし」
「セクハラ」
「年かねえ」

あからさまな下ネタを口にしながら、このホストはあまり接触してこない。たまに肩を抱かれたりするが、それも一瞬触れるだけ。

「口だけですよね。いつも」

野菜ジュースも空になって、もうここに留まる理由がない。理由がないと一緒にいない。

「口だけ?」
「そうですね」
「初エッチ前に咥えてみたかったってこと?」
「そうじゃない」
「いやだけどさあ、無理やりは犯罪じゃね」

口だけの意味は通じていたらしい。

「俺に無理やり趣味はねえけど、お前が好きなら頑張ってみっかなあ」
「私にもありません」
「あ、でも恋人はわりと縛るタイプなんでヨロシク」
「私に言わないでください」
「それより俺のきんたまパンパンなのどうしたらいい? 他の女使っていい?」
「他の、って」
「嫌だよなあ? 妙ちゃんは、これは私のって思っちゃうもんなあ」

にやりと笑うホストに妙はムッとする。一瞬だけ、ほんの一瞬だけそう思ってしまったことに腹が立った。

********

金さんのたまは妙ちゃんのたまだからね!

銀さんが、恋人は縛るタイプって何かで書いてたような記憶があるんですけど。なんか意外だなって思った記憶が。意外と嫉妬深いのかなあ、銀さんって。

このホストと女子高生の二人は、ホストがわりと頑張って接点もってるけど妙ちゃんには頑張っていないように見えてしまうのが美味しい。





2019 0811

沖田と妙「雨降り、再会、雨宿り」

「もうね、雨が降ったらまず沖田さんを思い出しちゃうんですよ」

じめじめした空間で、妙がさらりと笑う。

「俺も、姐さんいねぇかなって雨降りの軒下見ると思いやすぜ」
「やっぱり。私もよ。また雨宿りしてないかしらって」
「そういう時に限っていねえんだよな」
「そうそう」

偶然も続けば必然になるのだろうか。
雨が降るとなぜか思い出してしまう互いの姿。
しかし決して深い意味はない。

「しばらく会いませんでしたね。傘を持ち歩いているの?」
「まさか。運良く雨降りに見回り当番がなかったんで」
「じゃあ今日は沖田さんの運が悪かったから会えたのね」
「姐さんは俺に会えて運が良かったねィ」
「ふふ、そうね」

沖田の物言いが相変わらずで、ああこんな感じだったなと思う。

「沖田さんに会えたのは嬉しいけど、これからどうしようかな」
「やみそうにねえな」
「待つのもいいけど、しばらく降りやまないなら困ったわ」

突然の雨も、雨宿りも、今となっては特に問題はない。
しかし、このまま足止めされ続けるなら別問題だ。

「姐さん、濡れてやせんか」
「ここのところが少し濡れたかしら」
「ああ、着物か」

ざっと見た感じ大丈夫そうだと思ったが、意外とそうではないらしい。

「この生地は水に弱いから、染みになっちゃうかも」
「ありゃりゃ」
「できれば早く脱いで、広げて乾かしたいのよね」

困り顔の妙は珍しく、つい凝視してしまった。沖田に着物のことは分からないが、困っているなら手助けしてあげたいとは思う。

「姐さん、寄れる家ならありやすぜ」

この近くに空き家がある。たまに任務で使ったりするので一通りのものは揃っているし機能している。実は、その空き家の整備をするために向かっている途中だったりする。先日見回り中に昼寝をしていた罰だ。

「任務用なんで人はいねえし、そこで乾かしたらいい。男もんだけど一応着替えもありやすぜ」
「でもそんなところに部外者が入ってもいいのかしら」
「基本空き家だし今は使わねえんで。まあ、気になるなら代わりに掃除でもしてくだせェ」
「場所を借りる代わりにお掃除をすればいいのね」
「その間、雨漏りの修繕やらしてるんで」

妙は着物が乾かせる。沖田は面倒ごとが半分に減る。お互いに良いことしかない。

「終わったらお蕎麦でも食べに行きましょうか」

雨宿りもいいものね、と笑った妙を見て、沖田はそうかもなァと呟いた。

********

また雨宿りしてる(笑)
好きなんですよ。雨宿りって二人きりの世界って気がしませんか。二人きりの世界で、年相応になる二人が好きなんです。

でもさ、雨の空き家に二人きりで姉上は着物脱いで、それで何も起こらなそうなのがすごい。自分で書いてても思った(笑)




2019 0811

伊東と妙「君、花に埋もれて」

まばたきをする。その狭間に夢を見た。
淡い花びらに埋もれ、彼女が死んでいた。

「伊東さん」

ささやかな声に、伊東の意識が浮上する。
そこに在るのは夢で見た女の顔。
違うのは、その顔が笑っていること。

「寝起きは可愛らしいのね」

昼間なのに薄暗い。太陽は見えない。

「ここは」
「うちの道場ですよ。ああ、安心してくださいな。私たち以外誰もいません」
「・・・安心?」
「こんな可愛らしい姿を誰かに見られるの嫌だろうと思ったのだけど、違ったかしら」

可愛らしいの意味はわからないが、こんな姿とは道場の片隅で横たわっている姿のことだろうか。それなら大正解だ。

「近藤さんを呼びに来たと言っていたわ。でも一足遅くて、近藤さんは戻った後だったのよ」
「・・・ああ、そうだった」

頭も身体も重かった。二重生活のような日々を送り、色々とすり減っていたのだろうか。
裏切りが魂を焦がしていた。良くも悪くも。

「あなたはそこに腰かけて、気づいたときには眠っていたわ」
「そうか。・・・記憶にないな」
「大変だったのよ? 私一人じゃ奥まで運べないし、ここに寝かせるので精一杯」

静かな空間に小さく響く声。他に人がいないというのは本当だろう。意味のない嘘を吐くひとではないと知っているのに疑う癖は抜けない。自分が嘘吐きだから。

「夢を見ていたよ」
「あら。どんな夢?」
「君が死んでいる夢」
「まあ・・・ひどい夢ですこと」

花びらが舞っていた。肢体に降り積もる花が羨ましかった。

「あの花はなんという花だろう。とても綺麗でね、ずっと見ていたかった」
「私が死んでいるのに?」
「君が綺麗だったんだ」

形あるものも無いものも、使えなければ捨ててきた。生き方は変えようがない。もうこの生き方しかできない。花などない道を往くしかない。

「まだ目覚めなくていいのなら、ずっと見ていたかったよ」

君の隣で。花に埋もれて。

********

原作沿いだと伊東さんは最期が決まっているので、どうしても哀しさや寂しさを内封した話になってしまいます。そこが好きだったり。

伊東さんのやったことは許されることではないけど、そこに向かうしかなかった彼の弱さや脆さやを思うと嫌うことができないんですよね。まあ、嫌いなキャラはいませんけど。

いつか原作沿い伊東×妙を書くのが夢です。どうやれば絡ませられるか考えるの楽しい💃



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