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定期的更新、短文や会話文や過去に書いた小説をうpします。


【イン・アウト】
 いつも楽しい気持ちのままいたい。いつも充実した時間を過ごしていたい。
 そう強く願う度に、どうしても寂しさが襲いかかってくる。

 冬は嫌いだ。吐く息が白く染まると、空気にまざって消えていくのを寂しく思う。厚着をしなければ温もりを保てない体が寂しい。寒くて手が悴み、思うように動かせなくなると不安になる。
 冬は嫌いだ。一人っきりでいる理由を考えなくてはいけなくなるから。
 マフラーに隠れて、クリスマスソングを口ずさむ。けれどそれに気付いて頭を撫でてくれる手はもうない。早く帰って母親が準備している料理を食べようと笑いかけてくれる人もいなければ、豪華な料理を用意してくれている母親もいない。
 冬は、嫌いだ。子供ではなくなったあの日から。



***
「可哀想な人……。」
「えぇ?」
「狡い人。」
「狡くないよー、狡くないよー。」
「……ムカつく。」
「あれ?帝人君?」
「ムカつくムカつくムカつくムカつく!そんな話を聞いて、僕にどうしろっていうんですか!」
「……温かいねぇ?子供は体温が高くていい。」
「馬鹿野郎。」
「……うん、やっぱりちょっと狡かったかも、ごめんね?」



2012/11/06 00:13 (0)


 通り雨、通り道、通り魔。
 女の子が一人、真っ暗な道を歩いていた。雨露に濡れた細道を、傘も差さずに歩いていた。泥と砂利でぬかるんだ道は足場が悪くさぞかし歩きにくいだろうに、それでも彼女は靴底がすり減ったサンダルを履いていた。その足で一歩一歩確かめるように慎重に地面を踏みしめ、まるでそれが何かの作業かのように丁寧に、彼女は雨降る道を歩いていた。
 見れば、両膝には痛々しい赤い血を滲ませ、そして大きな二つの瞳にはたくさんの涙を浮かべている。可哀想な子だと、良心が痛んだ。

 傘は持っていないのかい。彼女に問いかけてみる。こんな雨降る夜に、君は傘を持っていないのかい、と。
「私には必要ないから。」
 そう言う彼女の唇は寒さで血色が悪く、小刻みに震えているというのに何を言っているんだか。

 こういう雨の日にサンダルは不向きだと思うけれど。誰も君にそれ以外(ぺらぺらのサンダル)は、そう例えば長靴とか、履かせてくれなかったのかい。気に障ったのか、彼女は少しだけムッと顔をしてさっきよりも素っ気ない口調で返事を返す。さっきと同じ言葉で。
「私には必要ないから。」
 そう言う彼女がもし長靴を履いていれば、滑って転んで、その足が傷つくこともなかったはずなのに。誰も、誰も彼女に長靴を与えてくれなかったのだろう。

 では、君のお父さんとお母さんはどこにいるの。
 途端に彼女の表情に悲しげな色がまざり、私に見られたくないのかそれを隠すように俯いてしまった。今度はさっきよりも気に障るようなことを言ってしまったみたいなので、慌てて別のことを訪ねてみる。

 君は今、どこに向かっているの。この道はどこへと続いているの。果てしない先までずっと真っ暗闇、その行く先に光の筋なんて見えやしない。雨粒がはねて音がする、その音以外は何も聞こえない静けさの中、真っ暗な道を歩んで彼女はどこに向かっているのだ。
 彼女は数回、頭を横にふる。自分でもどこへと向かっているのか知らないのだろうか。

 この道を行かなければいけないの。
「お父さんが、行きなさいって言っていたから。寄り道しないで、真っ直ぐこの道を行きなさいって。」
 そう言いつけたお父さんは今、彼女のそばのどこにもいないのにね。ちゃんとお父さんからの言いつけを守っているのだ。可哀想な子だと、健気な子だと、いい子だと、悲しくなった。





 彼女の行き着いた先に、何が待っているのか。父親からの暴力か、母親の悲鳴か、ぐっと堪える彼女自身の涙か。その行く先に待っているのは、何だ。いつも見慣れた部屋に飛び散る赤い血は、きっと彼女の父親のもの。毎日のように絶対的な暴力を振りかざしていた父親が、何故だかその時はぴくりとも動かずに、息も冷たい。それがまごうかたなき死体なのだと彼女が気付いた時、次に彼女の目に映るのは血に濡れた一本の日本刀を高く掲げ自身も全身血染めとなっている母親の姿だった。
「杏里ちゃん。」
 どんなに辛いときでも母親が優しい言葉をかけてくれていた。大好きな大好きな、お母さん。
 彼女はいつもの母親の姿を思い出そうと、必死に頭の中でその姿を思い描いてみようとするのだが、目の前の異様で強烈な光景が邪魔をしてそれをさせてくれない。
 混乱して何もかもが理解できていない彼女に、またも混乱をかき立てる出来事が起こる。飛び散る赤、今度は母親の首筋からだ。白くてほっそりとした母親の首筋から、斜めに一本、一瞬だけ見えたあれは肉の断面か、大量に吹き出る血液は今度は彼女の元にまで届く。顔に付いた血を両手で擦りとって、その手で触れた生暖かさは、きっと母親の体温だったのだ。暖かかったお母さん。それも今では冷たくなって、静寂と化している。

 自分が一人ぼっちになってしまったことを理解した後、彼女の意識は落ちて途絶える。





 通り雨、通り道、通り魔。
 女の子が一人、真っ暗な道を歩いていた。雨露に濡れた細道を、傘も差さずに歩いていた。靴底のすり減ったぺらぺらのサンダルで。
 私はあまりにもその子が可哀想だったので、彼女が歩いていた道の先、一本の分かれ道を作りその分かれ道の真ん中に一本の標識を立てた。その標識を使って彼女を騙し、彼女の父親が言っていた方向とは別の方へと続く道を、彼女に歩んでもらうことにしたのだ。

 通り雨、通り道、通り魔。
 世間を賑わしていた通り魔の犯人は彼女の実の母親であった。その目は呪われ赤く染まり、欲望は切り刻む愛の悲鳴のみとなり、挙げ句彼女の母親は彼女の父親を愛して死んでいった。そして命をとりとめた引き替えに、彼女の体も呪われて、以来彼女は人間ではいられなくなる。
 私によって運命の通り道を変えられてしまった女の子。私は彼女の命を拾うことはできても、傘をさしてあげるのも長靴を差し出すこともできなかった。優しく接してあげられなかったのだ。
 だからどうか彼女の未来が、悲しい通り雨が過ぎ去って、誰かと笑い合っていられる幸せな日々でありますように。





 通り雨、通り道、通り魔。



2012/02/16 05:11 (0)


「臨也さんなんて嫌い、大嫌い。」

 見上げる天井はあまりにも見慣れない、これは他人の部屋の天井だ。
 この部屋は暗い。見上げる天井から始まって、目線を下げるほどに見えてくる色は暗く暗くなってゆく。落ちた視線の先は今自分が横になっているベッドの端で、その色は暗い部屋の中で郡を抜いて真っ黒だ。
 暗い部屋、こうやってみているとまるで自分が海のそこにいるような気がして、なんとも不安な気持ちになってくる。深海のように息はつまることはない。ただ、胸がつまってしまいそうだった。
 そんな僕の隣、臨也さんはベッドの隅に腰掛けて、さっきっから手にする携帯をせわしなくいじっている。液晶画面の光りがやけにまぶしいと思った。その白い光りに照らされる横顔は、憎たらしいほどにかっこいい。

「帝人君は大嫌いな人の部屋にずかずか上がり込んで、しかも大嫌いな人のベッドの上で寛いだりしちゃうんだ、へぇ。」

 こちらに目線の一つもよこさないで言いながら、その顔にニタニタとした笑みを浮かべる。本当に嫌な笑み。思わず釣り上がっている口角を抓み、捻り上げ、その綺麗な横顔を痛みつけてやりたくなる。痛みに慌てふためく様はきっとお腹がよじれてしまうほど愉快なはずだ。想像するだけでもかなり面白い。思わず鼻で笑ってやると、臨也さんは一度だけあきれたような顔で僕をみて、そしてその手に持っていた携帯を閉じそこら辺へと投げ出した。

「一体全体、何がそんなに君を不機嫌にさせているの?勝手に人の部屋にやって来て、延々と『嫌いだ』なんだって、流石にそろそろ俺も怒るよ。」
「臨也さんなんて、臨也さんなんて。」
「あー、はいはい、もう分かったから。ちょっと黙れよ。」

 彼が羽織っていたジャケットを脱いで、それもそこら辺に投げてやる。ベッドの下を覗けば、さっきの携帯がジャケットの下で液晶ライトを光らせてふるえている。見るに、メールの受信を知らせるものだった。その知らせが一体全体どんなものなのか。どうせ他人の不幸のようなくだらないものなんだろう。この人は人の不幸がないと死んでしまう人種だから。
 そんな他人の不幸を生きる糧にする悪魔みたいな人は、受信を知らせる携帯には目もくれずに、ずかずかとベットに乗り上げてきて二人分の重さで軋むベッドの上、猫のようなするりとした動きで僕の隣に寝転んだ。途端に近付いたその距離に、すぐ近くにある体温に、僕が感じたのは嫌悪だけだった。
 彼から逃げだすように目をそらし、ふかふかな枕に顔を埋め、真っ暗闇に悪態をつく。

「こっち来ないで下さい。」
「このベッドは俺のベッドだ。」
「勝手に触れないで下さい。」
「そういう君も俺のものだからねぇ。」

 僕の体に巻き付く長い両足は憎たらしく、子供扱いして頭を撫でてくる手には腹が立った。

「臨也さんくさい、香水くさい。」
「君の好きな匂いだろ。」
「嫌いですよ。臨也さんの全てが嫌いです。」
「……。」
「嫌い、嫌い嫌い、大嫌い。」
「その話はもう聞き飽きたから、また明日にしてくれない?とりあえず寝ろよ。」

 彼の全てが不快に感じながらも、子守唄に聞いた彼の心音だけはただの人間じみていて心地が良かった。



2012/02/01 05:39 (0)


理想はいいね。言うのはタダだ。でもそれを実践しようとすると経費がかかる。時間と体力、知力、忍耐力、あとは人としての魅力とか?
魅力的な人はいいね。それがあるだけでだいぶ有利なんだろ。何てったって周りの人間が手助けしてくれるし、見守ってもくれる。理想を叶えるためのいい環境ができる。
財力、知力、体力も確かに人としての魅力だけど、そんな後天的なものではなくて、もっと人間の本質にある魅力、つまりは顔や体っていう見た目のことなんだけど、そういう先天的な魅力ってどんな人間でも大好きだし、どっちかというと後天的なそれよりも愛している。
人と人とで、人間の本質を見極めて、自分好みのものを選択し、愛し合い支え合う。そうやって理想は叶えられ社会はより良い方向へと向上する。よくできた世界じゃないか。
ちなみに帝人君、君は実に俺好みで素敵だよ。とりあえず俺に愛されてみない?



2012/02/01 05:21 (0)

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