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私は7番目の天女なのだと、彼らが言った。だけど私はただの人間で、忍術学園の彼らが何をもって私を天女と呼んでいるのかが理解できなかった。果たしてそれは、私が天から落ちてきたことが理由だろうか。だけど私は足を踏み外しビルの屋上から落ちてしまっただけ。天からなんかじゃない、人工物の上から落ちてきたただの人間に過ぎないのだ

「7番目ということは、私の他にもこの世界に来た人がいるということですか?」

だとしたら彼女たちは何処にいるのだろうか。この世界に来てしまって3日の時が流れたが、私が彼女たちに出会うことは1度としてなかった。その問いに笑顔で「天に帰られましたよ。」そう言った土井先生の言葉に、私はどっちの意味だろうと内心で首を傾げた。果たしてそれは、彼らの想像する元いた世界に帰ったということなのか、それとも文字通り天に…死後の世界に旅立ったということなのか…。有無を言わせない彼の完璧なまでの笑顔に、私は内心で勝手に後者だろうなと選択した。此処は忍びを育てる学校。暗殺なんてお手の物。そういう術を沢山、持っているのだ。テレビや漫画でよく見ていたあの朗らかな彼らじゃない、この現実の彼らは容易に人を殺せるのだ

「伊織さん、もうこの時代には慣れましたか?」
「土井先生を含め、教職員の方達がよくしてくださるお蔭で、不便なことは何一つありません。本当に、ありがとうございます。」

夕暮れの陽射しが障子から差し込んで、私に与えられたこの一室を赤く照らした。同時に血の様に赤く染まる土井先生に、小さく背筋が震えた

「当然のことをしているまでですよ。伊織さんは客人ですので、ゆっくりしていてください。」
「……ありがとう、ございます…。」

ゆっくり…、僅かに語気の強まったその言葉に私は、ぐっと気圧された。この世界に来て3日。私はその全ての時間をこの与えられた一室で過ごしている。これではまるで軟禁状態だ。きっとこの部屋を抜け出そうものならば、私はすぐにでもこの首をはねられるのだろう。漠然とその考えが頭を過った。私の身の回りの世話は、教職員の方々が手を焼いてださっている。食事は部屋まで運んでくださり、湯を浴びるのも深夜に教職員の方々が使う湯船を使わせてもらっていた。だから私は誰一人として、忍たまやくのいち教室の生徒たちに出会うことがなかった。それは意図的なのか偶然なのか…分からないけど、ただ分かるのは私は客人なんて大層な位置付けじゃない。警戒するに値する人物として置かれている、それだけだった

「伊織さん、今日は食堂に夕飯を食べに行きませんか?」
「…え?」

だから驚いたのだ。まさかこんな早い時間帯に部屋を出ることを許されるなんて。土井先生の顔を見ても分からない。その笑みを深めた表情からは、彼が何を考えているのかなんて私にはまったく分からないのだから。私は戸惑いがちに頷いて、土井先生の後を付いて食堂へと向かった


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