本当に素直じゃないキミに
「あ!梢ちゃんに出雲ちゃんも、無事そうで安心したわ!」

あれから何とか任務を終了させた私たちは揃って、集合場所であるこの廃病院の入口へと戻ってきていた。すると一足先に戻ってきていたのだろう。志摩くんが、「坊も子猫さんも無事で何よりですわ。」と暗闇でも目立つ、どピンク色の髪を揺らしながら駆け寄ってきた

「何や志摩、お前もう戻ってきとったんか。」
「志摩さん、サボったらあきませんよ。」
「あきませんよ。」

そんな志摩くんをバッサリと切り捨てる勝呂くんと子猫くんに、私も隣でそうだそうだと頷いた

「あんまりやっ!俺かて自分の精神を犠牲にして、頑張っとったんに…うっ。」
「あ、志摩くんのパートナーは宝くんか。確かに暗闇で会話無いのって辛いよね。」
「せやかて、男がめそめそすなや。」

勝呂くんは溜息を吐きながら、鬱陶しそうに眉根を寄せる。あ、眉間に皺はいつものことか

「ところでその宝は何処に行ったんや。」

確かにキョロキョロと辺りを見渡しても、宝くんの姿は何処にも見当たらなかった。パートナーの志摩くんが戻ってきてるんだから、この場の何処かにはいるはずなんだけど。そう思って勝呂くんの隣で首を傾げていたら、後ろにいた出雲ちゃんが当然の様に言葉を吐いた

「アイツなら、もう帰ったわよ。」
「何やて!?」

「今さっき、そこの門から出てった。」そう腕を組んで、面倒くさそうに言う出雲ちゃんに、私はあちゃーと頬を人差し指で掻いた。そして案の定、勝呂くんは額に青筋を浮かべながら、ワナワナと震えている

「あいつ、ほんっま!いけ好かんわっ!」
「ま、まぁ、落ち着いてください坊。ね。」

宝くんの自由奔放さというか適当さというか、チームワークの無さというか…。勝呂くんはガーっと怒りを露わにして、子猫くんに宥められるように腕を掴まれていた。出雲ちゃんはというと、はぁ…と溜息を吐いて近くに積まれていた廃材の上に腰を下ろしている。まぁ正直、私ももう帰りたいです眠たいです

「そう言えば、奥村先生に燐くんとしえみちゃんは?」

宝くんは帰宅したから良いとしても、集合時間を過ぎたこの場所にはその3人がまだ見当たらないでいた。先に戻ってきていた志摩くんに尋ねれば、「忘れてはりましたわ。」と少し離れた場所にある林を指さした

「若先生たちならアレですよ。」
「アレって何や。」

私に代わって冷静さを取り戻した勝呂くんがそう聞けば、「恒例行事みたいなもんですわ。」と志摩くんは、へらりと笑った。その指さしされた先を辿っていけば、確かにそこには奥村先生と燐くん、そしてしえみちゃんがいて何かを話しているようだった

「あんな所で何してはるんでしょうね?」
「というか奥村先生、何か怒ってない?」

首を傾げる子猫くんと私に、志摩くんは「お説教中ですわ。」と頷いた

「奥村はまた何かしでかしたんか?」
「若先生が言うてはりましたやん。此処で死んだ霊は病室に閉じ込められとるて。それを奥村くんと杜山さんが、成仏させてもうたみたいで。」
「え、何か問題あるの?」

病室に閉じ込められていた魂は私も気になっていたから、もし燐くんと同じ立場だとしたらきっと成仏させていたと思う。任務外行動だったとしても、間違った行動ではない筈。というか正直、燐くんの行動は予想の範囲内だったと思うんだけど

「まぁ、今回はそないな問題は無かったんやけど。そん時に何や杜山さんが、危ない目におうたらしくて。まぁ、結果的に怪我とかは無いみたいやったから、良かったんやけど…。」
「また燐くんが過剰に無茶やっちゃったってことか。」
「自業自得や。」

腕を組んでフンっと鼻を鳴らす勝呂くんに私は、ふふっと肩を揺らして笑ってしまった

「何、笑っとるんや。」
「え、何でもないよ何でもない。」

訝し気に此方を睨む勝呂くんに、私は誤魔化すように両手を振って気にしないでと、笑顔を返した。何というか勝呂くんは本当に、素直じゃないよね。心配なら、心配だって言えばいいのに。あ、でもそんな可愛い勝呂くんは勝呂くんじゃないような

「お前、今なんや失礼なこと考えとらんか。」
「か、考えてないよ。ほら、奥村先生のお説教ってねちっこいから、燐くんご愁傷様だなって。」
「そのお説教常連者の椎名に言われたら、奥村も世話ないな。」

なんて勝呂くんに鼻で笑われてしまった。言い返せないのが悔しいなこのやろう

「とにかく、お説教が終わるまで待ってはりましょう。」
「そうやな。」

子猫くんの言葉に勝呂くんは頷いたけど、そうか…。待ってるのか…。宝くんみたいに帰っちゃダメなんだ…

「私、廃材の上で寝ててもいい?」
「アホか。」


本当に素直じゃないキミに
(とりあえずもう帰って寝たいです)
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