私のお話
私には前世の記憶がある

と言ってしまえば中二病ですか?と言われてしまうのがオチだけど、これが本当にあるのだからどうしようもない。私がこの世界に新しく生を受ける前、私は魔法使いとして闇祓いとして、仲間たちと共に闇の帝王。ヴォルデモートと戦っていた。だけどその戦いの最中に、私はヴォルデモートの手によって旧友である、ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター。彼らの目の前で私は17年という短い生涯に幕を下したのだ。後悔なんて数えきれないくらいあった。守りたい者だってたくさんいたし、やりたい事もたくさんあった。何よりまだ彼らと一緒に笑っていたかったのにな

しかし私のこの記憶は、何も産まれた時からあった訳じゃないのだ。あれは私が11歳の頃。私は人には見えざるモノ、所謂、悪魔というモノに襲われた。いつもの学校からの帰り道。今日は少し探検をしながら帰ろうかな、そう思って森の中に足を踏み入れたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。しかもその日に限って、山頂にある神社へと続く山道には人気が無く、何処か森全体がひっそりと静まり返っていた。この時間帯ならまだ人が行き来しているはずなのに

「何だか、気味が悪いな…。」

ポツリと呟いた言葉は、突然の風に攫われてしまい、ガサガサと揺れる草木に私は、ぶるりと身震いをしてしまった。やっぱり今日は真っ直ぐ家に帰ろう。そう思って、駆け足で山を下ろうとした時だった。ガッと何かに躓いた気がして、私は手を付く暇もなくずでーんと派手に転んでしまった

「…い、たた…、な、何?」

痛む膝を庇いつつも、振り返って自分が転んだ場所を見るも、そこには何も障害になるような物は無くて

「おかしいな…。何か大きな物にぶつかった気がし…うっ、」

「気がしたんだけど。」そう続く先の言葉は出てこなかった。突然に苦しくなる気道に、プツリと鋭い何かが首に突き刺さる痛み。そして持ちあがる身体。誰かに首を絞められているような感覚。おかしい、目の前には誰もいないのに…何で。意識が飛びそうになったその時、持ち上げられた私の身体はそのまま地面に叩きつけられる様に投げ捨てられた

「…ぐっ、!」

受け身なんてとれる訳もなく、私は投げ捨てられたまま地面に倒れた。幸い、落ち葉がクッションになってくれたお蔭で酷い怪我をするのは避けれた様だった。だけど一体、何が…、ぐらぐらする意識の中、前を見ればそこにはいつからいたのか、私と同じくらいの背丈の猿の様な獣がいた。いつからなんて分からない。けど直感で、あの猿が私の首を絞め投げ捨てたのだろうと理解した。ギラついた真っ赤な目に、口から除く鋭いキバ。尖った爪には少量の赤。恐る恐る自分の首を触れば、ぬるりと同じ赤が滴り落ちた。そうか、あの鋭い痛みはあの爪が刺さったからなのか。ガタガタだらしなくも震える身体に、何処か頭は冷静だった

「…グルルルルッ!」

目の前の猿は尚も威嚇を続けながら、今にも飛びかからんばかりの勢いで私を睨み付けていた。どうしよう、このままじゃ本当に殺されてしまう。何か武器になる物を手にしなくちゃ。視線は猿から一切、離すことなく手だけを地面に彷徨わせて武器になりそうな物を探す。その時、私の手に吸い付く様に飛び込んできた何かに私は驚いて一瞬、猿から視線を外してしまった

「ウグルァァッ!」

その隙を狙って襲いかかってくる猿に、私は形振り構ってられないと、手の中の物を確認することもせずに前へと突き出し、咄嗟に頭に浮かんだ言葉を叫んでいた

「インセンディオ(燃えよ)!」
「ギャァァ!」

途端に燃え上がる猿の身体。耳を塞ぎたくなる程の絶叫に、私はびくりと身体を震わせた

「…い、一体、何が…。」

訳が分からなく放心する私を余所に、猿は慌てて森の奥へと逃げていってしまった。そこで私は改めて手の中の物を見た。何か火を起こす様な物だったのだろうか…だけど、私の手の中にあるそれは何の変哲もない、ただの細い木の棒だった。それなのに、何処か懐かしい気がする。凄く私にとって大切な物だった様な。その時、ピリっと頭を走る電気の様な鋭い痛みに、私はぎゅっと目を瞑った。途端に頭の中に流れ込んでくる沢山の映像。…これは、私の前世の記憶

「…そうだ、これ……私の…、杖だ……。」

何で、どうして。なんていくら考えても分からないけど。私は記憶を、彼らとの思い出を全て思い出していた。私は地面に膝を付いたまま、杖をぎゅっと握りしめ、堪えることもせずにわんわん声をあげて涙を流した。握りしめた杖は、懐かしいくらいに私の手に馴染んでいた

あぁ、忘れていてゴメンね。思い出せなくてゴメンね。先に死んじゃってゴメンね。
泣き声に混じって叫んだ言葉は、きっと彼らには届かないだろう。だけどどうしても言わずにはいれなかった。ゴメンね


私のお話
(これが私が、前世の記憶を思い出した日のこと
 そして悪魔が見える様になった出来事だった)

さぁ、アインス・ツヴァイ・ドライ!で唱えようか
終わらない魔法を、ハッピーエンドの呪文を!
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