宣戦布告の罠


(京クロ前提の狂→クロ/甘い甘い御褒美とちょっとだけ連携)




兄貴が文化祭の実行委員長になったらしいという噂にも似たそれを俺は半信半疑でいた。俺が確信を持てたのは、クロウが1人で帰っている姿を見た時だった。
兄貴は余程のことが無い限りクロウを独りにしないことぐらいは、今までの兄貴の発言や奇行を見てきて十分熟知している。つまり、それ程実行委員長の仕事が忙しいということだろう。
だが、同じクラスのブルーノが言うには最近クロウと遊星時々ジャックが兄貴の仕事が終わるまで待っているという。それを聞いた日の放課後、兄貴のクラスに行ってみれば、そこには本当にクロウが居た。クロウは俺に気付いていないようで、机を椅子にして窓から外を見ていた。

「なーにやってんの、クロウちゃん」

そう呼びかけると、肩を一度震わせてからこちらへ振り向いた。最初は驚愕の顔を見せたが、すぐに顔を歪ませて「お前かよ」と悪態をつき机から降りた。

「そんな言いぐさないんじゃねえの?せっかくクロウちゃんのために来てやったのによお」
「きもい呼び方すんな。てかなんだよ俺のためって」
「健気に兄貴を待つクロウちゃんのために来て上げたって事だよ」

愉快に笑って言ってみせればクロウの眉の皺が酷なる。その表情さえも今は愉快でしょうがない。が、笑うのをこらえるとクロウが先程座っていた席の隣の席の机に腰掛けて、俺を警戒しきっているクロウを見た。まあ見事な程にこの短時間で嫌われたもんだなと思った。
つかの間、何も喋ろうとしないクロウに俺はずっと聞きたかったことをぶつけることにした。

「何でお前兄貴と付き合ってんの?」

あまりにも唐突すぎたのか、クロウは目を丸くした。

「なんだよ、いきなり……」
「だってよお、兄貴って顔だけが取り柄じゃん?」
「おんなじ顔のお前がそれを言うか」
「まあまあそこは置いといてよ。……兄貴って顔の良さを引いたら変態なだけだぜ?お前もそれ分かってんだろ?なら何で付き合ってんだよ。もしかしてドMか何かなの?」
「ちげえよ!馬鹿行ってんじゃねえぞこの不良野郎!」
「なら何で付き合ってんだよ。教えてくれたら俺だって別に変なこと言わねえよ」

クロウは俺がそう言うと俺から目を逸らした。

「知らねえよ」

そう呟いたクロウだが、そう言ってすぐに口元は笑みを浮かべた。

「けど、あいつ馬鹿だからな」

どこか幸せを染み込ませた表情が、俺の繊細で荒れやすい感情を煽った。
座っていた机を蹴り飛ばすように音を立てて降りると、クロウに染めよった。クロウの背後にある窓に手を付いて逃げれないようにするとクロウを見下ろした。こんな時でもクロウの表情は怒りを持っていて冷静だった。

「何のつもりだよ」
「んー?ちょっとむかついちゃって」
「何がだよ。意味分かんねえ」
そう言って顔を逸らしたクロウの横顔に、俺は躊躇することなく口付けた。

「お、ま!何してんだ!」

過剰に反応したクロウは、俺の肩を押したが、体格差からも分かるようにクロウの力じゃ俺の体はびくともしない。
一旦唇を離すといつもネクタイを付けていない緩い襟元を手で開くと肌に強引に吸い付いた。

「な、にしやがる、離せ!……つっ」

わめく声は首元に舌を這わせば黙ってしまった。だが肩を押す力が一瞬だけ強くなり、クロウに密着していた俺の体は強く押されて距離を作った。

「てめえなあ、いくら心の広いことに定評のあるクロウ様でもさすがにキレるぞ」
「キレる、ねー……、でもクロウ結構乗り気だったじゃん」
「ああ!?誰が乗り気だってんだ」
「分かってねえの?自分がさっきどんな顔してたかさ」
「何、言ってんだよ」
「……教えてやろうか?」

手をクロウの顔に伸ばすと、顎を掴み上へと向かせた。

「おい」
「はは、そんな怖そうな顔すんなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
「可愛いなんてよくこの顔みて言えたもんだな。やっぱお前あの馬鹿の弟だよ」
「今はあんまあいつのこと言って欲しくねえなあ」

クロウがそれに言い返そうとした。だが、それもきっと兄貴のことだと思った俺はクロウが言葉を発する前に口を塞いだ。もちろん俺の口で。
油断しきって開いていた口に舌を入れると、さっきと同じように肩に手が添えられ押される。まあ、力なんか全然入ってないんだけど。

「ん、はっ……んん」

クロウからそんな声が聞こえて、気持ちがそれはそれは高ぶった。このままこれ以上に調子に乗ろうと思ったその時だった。

「……いっつぁ!?」

舌を強く噛まれたかと思うと後ろから伸ばされた手によってクロウから引き剥がされた。
さっき俺が座っていた机に投げ飛ばされた体を受け止めてもらうと、クロウに噛まれたか舌を敬い口に手を当てると、噛んだ張本人であるクロウを見たが、クロウの前にはジャックが立っていた。

「貴様何をしている」
「何って、ただの戯れだけど?」
「戯れだと!?よくもそんなことが言えたな!」
「おー、怖い怖い。そんな怒るなよお父さん」
「貴様……!」
「おっと、そろそろ帰んねえといけねえや。じゃあな」
「おい、待て貴様!!」

ジャックの怒声も軽く聞き流しカバンを持って足早に教室を出た。
廊下にリズミカルな音が響くなか、やけに荒い足音が近付いてきたのが分かった。
そして俺の目の前に俺と同じ顔した奴、兄貴が現れた。階段を全速力で駆け上ってきたのか、浮き上がる汗が尋常じゃない。
だが、顔つきは確実に怒りを持っていた。


「クロウに何しやがった」

肩で息をしながらいつもより低い声で問いかけてきた兄貴に、俺は場違いながら笑って見せた。そして言い捨てる。

「知るかよおにーちゃん」

兄貴は舌打ちすると俺の横を走り去ってしまった。
さっきの、外から見られたかなークロウの髪方分かりやすいからな。まあ、それも良いか。だって面白えじゃねえかよ!
そう心で気分を高めると兄貴が駆け上ってきたであろう階段を降りていった。





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