「なぁにしてんのォ、新開」
「ああ、靖友」
自主トレがてら、オレが学校まで走ってきたときだった。新開が小屋のなかから、ウサ吉を抱えて出てきた。餌でもやんのか。
「いや、こんなに天気がいいんだし、ウサ吉も散歩したいかと思ったんだよ、今朝」
よく見れば、新開の手には細いリードと首輪が握られていた。あれでウサ吉引き連れんのか?
「どこまで行くんだ?」
「学校の周りだよ、おめさんも来るか?」
新開はパワーバーをくわえた。別にやることもねえしなァ、まあオレもついてってみっか。ウサ吉を受け取って、リードを付けさせた。

ウサ吉は草を嗅ぎながら、もしゃもしゃと食い始めた。こいつもでかくなったなァ、と頭を撫でる。ふさふさだ、猫には及ばねえけど、悪くねェ。
新開は草をむしり、ウサ吉の口元に持ってった。こんな柔そうな面した奴が、あんな顔で走るなんて思えねぇよな。
そういや、コイツ、トラウマだっけ? ウサギ轢いたやつ。やっぱ、育ってんの見ると何か考えんのかァ?
「なァ、新開」
「ん、どうした。いつも以上にブサイクだな」
新開はウサ吉を抱き上げて、首をかしげてやがる。ひとが少しは心配してやったのに、んだよこの態度は。新開の脚を蹴りつければ、ウサ吉を庇うように抱えて避けた。
「避けんなクソ!」
「いや、当たったら痛いだろう」
あんまり良くないな、それは。新開はウサ吉を撫でて、ひょいひょいと避け続けてやがる。黙って的になれっての。
こうしてりゃ、コイツに傷があるなんて、まったくわかんね。でも、やっぱ内に隠してんもんはあるんだろなァ。知りてー訳じゃねーけど、隠されんのも気に食わねェ。
「オイ」
「靖友?」
新開の襟元を掴み、引っ張る。新開はウサ吉を抱えたまま、じっと俺を見た、探るみてぇに。ウサ吉は新開の腕を跳ねて、地面に降りた。空気でも読んでんのかヨ。
「てめェ、オレに気使ってねーよな?」
「気を使う? そんなわけはないだろう」
オレの渾身の言葉がけも、コイツはするりとかわしやがる。こんなときまで、カッコつけかヨ。オレは相談できねーくれェ、頼りねーか。
「オレは、てめェが何を考えてっか知んねーけど、ちょっとぐれェなら聞いてやるってんだよ」
「……分かった、ひとまず落ち着け靖友」
新開はオレの胸を押して、宥めるように肩を叩いた。その顔は、少し焦ったように見えた。なぁに考えてんだか。
「おめさん、オレが何しても引かねえか?」
「ア?まァ大抵のこたァ構わねーヨ」
新開はオレの肩を掴んだまま目を泳がせていた。だんだんと、手の力が強まり、そして思い切り引っ張られた。
「靖友すまん!」
「あぁ?ちょ、何すぅ、ん!?」
新開が思い切り引っ張ったせいでオレの身体がぐらつく。目の前の新開に倒れ込むように、傾いた。そのまま、今度は新開が俺の顔を抑え、留めさせた。柔らかい感覚が、口んとこから、顔全体、身体の方まで広がるようだ。同時に、でけぇ熱が溢れ、オレの中まで侵すみてーだ。息を吸おうとしても、熱の塊が邪魔してかなわねェ。酸素が足りなくて、全力で走ったあとみてーに、頭の奥がぐらぐらする。涙目になんのも、おさまんねえ。数秒して、熱の塊が新開の舌だと認識する頃には、新開はオレから離れ始めていた。
歪んだ視界のなかで、新開はくしゃりと笑っていた。オレの頭を自分の肩に乗せて、寂しそうに呟く。
「本当は言わないつもりだったんだがな、これがオレが、おめさんに隠したかったことだよ、靖友」
新開はオレのことを離すと、ウサ吉を抱き上げた。それがスイッチであったみてぇに、新開はまたいつも通りに笑い、帰るか、と歩き出した。
オレは訳がわからず、しばらく立ち尽くしたままだった。新開は、オレに何した? まだ口に残る熱が、否が応にも分からされる。オレは、アイツにキスされたのかヨ……。
「靖友ー、どうした?」
「っ、るせ! 今いくっての!」
対して、新開は変わらずに見える。さっきの顔は、オレの気のせいかよ、クソ! オレは、ちっとだけ、気にしてんのによぉ……。
せめて福ちゃんなら、もちょっとすんなりいけたのになァ……。何でアイツ何だよバァカ!

新荒的な
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