黒尾は頭を悩ませていた。自分の中にいつの間にか浮かんでいた感情に、気付いてしまったのだ。受験を終え、溜まっていたゲームを処理していた孤爪は、カーペットの上で唸り声をあげて転がる幼馴染みを、心底面倒に思っていた。もちろん何も言わずに、ベッドで膝を抱えてゲームを続ける。黒尾とは家族と同じかそれ以上の時間を過ごしてきている。その経験が、「こう言うときの黒尾は関わってはいけない」と強く主張しているのだ。
しかし、もちろんそれが叶うはずはない。がばりと起き上がった黒尾が孤爪を振り返った。目を合わせないようにゲームを顔の前に持ち上げたが、なんの効果もない。黒尾は勢いよく孤爪の肩を掴んで鬼気迫る表情で告げた。
「研磨、俺澤村のこと好きみたいなんだけどどうしたらいいかな!?」
ああ、やはり面倒事だ。孤爪はため息をついた。

澤村、とは烏野高校バレー部のOB澤村大地のことだ。黒尾と同じ代の主将を務めていた、真面目で熱いが、落ち着いて強かな面も持ち合わせていた。初めて「ゴミ捨て場の試合」が実現したとき、黒尾と澤村はお互い譲ることなく、牽制しあっていた。このときの黒尾は、恐らく澤村を好きではない。それどころか自分と似ていて侮れないやつだと避けてすらいたかもしれない。
それが今ではこうだもんな。孤爪はじっと、黒尾を観察した。目の前にちょこんと正座し大人しくなっている黒尾は、人に預けられた猫のようだ。本当に真剣に、自分の気持ちと向き合おうとしているのだろうか。何となく無下に扱いづらかった。
黒尾がこんなになった原因はおおよそ分かっている。現在二人が通っているのが同じ大学の同じ学部なのだ。選択授業も被るのだろう。今までより澤村といる時間が増えて、見えなかったものが明確に見えてしまったのだ。
梟谷グループで合宿をした際も、同じ主将と言うことで二人は親しくなっていた。しかし、今のように近くに住み、同じ大学へ通い、同じ講義を受けるようになってからは、それ以上に話す機会が増えるだろう。その会話の分だけ、距離が縮まったということか。
しかし、そんなことで簡単に説明がつくのは友情までだ。黒尾が言っているのはその先、恋愛対象として。ここをどう越えたのかは、やはり本人の話を聞かなければ分からないだろう。
「なんで澤村さんのこと好きだって思うの?」
「え、お前それ聞いちゃう?」
黒尾は真っ赤に頬を染め顔を背けた。思わず顔をしかめる。黒尾がそんな顔をしていたって、可愛いげなどない。さっさと話してと促すと、頭を掻き、渋々と言ったように口を開いた。
なんでも、黒尾と澤村は同じ大学に通うだけでなく、住んでいる場所も近いそうだ。そして知り合いの少ない寂しさを誤魔化すために二人で話すことが多くなった。他に友人ができてからも変わらず、澤村といることが当たり前になっていた。
さらに、澤村はああ見えて家事、特に料理がひどく苦手らしい。呆れながら作ってやったところ、澤村がそれを気に入り、黒尾もなんだか放っておけず、気付けばほぼ毎日二人分の食事を作るはめになっている、と。
「ここまではいいんだよ」
「うん、わかる」
確かに、よく知らない人のなかに自分と親しいひとがいたら誰だってなるべくその相手といたいと思うだろうし、料理が出来ないのが心配になるのも頷ける。孤爪も、もし自分が黒尾で、もし同じ大学に日向がいたとしたら、ずっと一緒にいたいと思ってしまうだろう。しかし、ここからどうすれば恋愛感情にまで発展してしまうのだろうか。
「澤村ってさ、真面目だししっかりしてんじゃん」
悩みもせずにすぐ頷く。黒尾の言う通り、澤村は合宿中、試合でもそうでなくても、騒がしいチームメイトを律し、周りの雰囲気が落ち込んだときは率先して流れを変えようと声をかけていた。チームが落ち着いて戦いに臨むための要の一人といってよかっただろう。
黒尾は何故か自分のことのようにしきりに頷きながら、すぐにため息をついた。
「でもよ、家で気抜くとゆるゆるなんだよ」
黒尾は口元に組んだ手を宛がい、深刻そうに孤爪を見つめる。孤爪はゲームのデータを保存して電源を落とし黒尾に向き直った。
「ゆるゆるって?」
孤爪が首をかしげると黒尾は待ってましたと言うように身体を乗り出した。思わず引き気味に身体をそらしながら、じっと黒尾を見つめる。


悩む黒尾くん
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