昔の恋人。
「うわっ、さっむい!」
『そりゃそうでしょー、秋だもん』
「別れ」がその日の議題で
真夜中に始まったそれは気づけば朝になっていた。
高校から同じだったなまえは特に感情のなさそうな目で「海へ行きたい」そう呟いたのだ。そこから僕の車で30分のところの海へと向かった。
大体なんで朝まで揉めたのか。
それは僕のなまえと付き合ってから初めての浮気。高校時代からずっと隣にいたなまえはもうそこから離れない、なんて油断していたんだ。
たった一回、なんて浮ついたことを思っていたら案外勘の鋭い彼女にすぐばれたのだ。言い訳を並べても並べても彼女にはかなわなくて、最終的にはダンマリを決め込む形となった。
『ねぇ、総司。これからは先より思い出に浸りたいね。』
以前彼女が言っていた言葉。初めて聞いたときは思わず鼓動が嫌な動きをして、上手く笑顔でかわせなかったんだ
『んー、ここやっぱいいよね』
「僕のお気に入りの場所だからね。」
『さっむいけどね!』
そう言って寒そうにする君に僕のブラウスを貸すと素直に受け取ってくれて思わずほっとした。背伸びをして気持ちよさそうにしている彼女はもう機嫌を直したのだろうか口元は弧を描いていて僕も釣られて口元が緩むのを感じた。
『ねぇ、総司?』
「なぁに、なまえ。」
『別れよっか。』
だから、そんな笑顔で別れをつげる君を見て僕は固まったんだ。
「っ、なまえ」
『・・・あのね、一つだけお願いがあるの。』
「・・・嫌だ。」
『もし、その浮気相手と付き合うにしろ、これから先好きな人ができるにしろ』
「やめて、」
『ここには誰も連れてこないで。』
そういった彼女はこれまでで一番綺麗な笑顔で僕が貸したブラウスの袖の先からちょこん、と見えた指は少し赤く染まっていた。
「なまえ、なまえっ・・・」
誰もいない砂浜
さっきまでいた彼女は始発で帰って砂辺に静寂が戻る。
君が選んだ場所は僕の好きな場所で
それはきっと僕の罪の重さ。
愛してたんだよ、嗚呼、あんな女と遊んでこんなことになるくらいなら君だけにすれば良かった。
そんなことを思いながら砂浜を見回して僕は車の方へ戻っていた。
たった今からは抱きしめる資格すらない
泣いて笑う君振り回されることもない
幸せを願うこともない
君は
昔の恋人。(一番大切なものは君でした。)
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ある曲をテーマに。
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