沖田長編 | ナノ


  その二人、見つめ合う。


この世界は暗くて狭い。

この世界でわたしの存在はますます解らないものとなる。

この世界で私は“愛”を知らない。


その二人、見つめ合う。

「なまえちゃんおはよう」
『総司くん、おはよう』

あの放課後からわたし達は“恋人”となった。沖田くんが提案したことは1つ。
私たちが恋人を演じること。
演じることにより、沖田くんにも私にも告白してくる人が減るという作戦らしい。
あれからたしかに告白してくる人は格段に減った。

「なまえちゃん今日放課後空いてる?」
『うん、空いてるよ?』
可愛らしくでも媚びていないように首を傾げると沖田くんはそれが面白くて仕方ないというように目を細める。

・・・・最ッ低!

そう思いながら作り笑みで1日を過ごしたのだった。

帰りのHRが終わると直ぐに来た沖田くん。こういう時だけ行動が早いんだ、彼は。

「なまえちゃん、ほら行くよ荷物持って」
『え、ちょっと待って総司くん!』

痺れを切らしたのか急に手を引っ張る沖田くんに素で驚くと沖田くんはそれすらも見抜いたかのように満足そうに微笑んでる。

『・・・・ちょっと沖田くん。』
「・・・」
『沖田くん』
「・・・」
『・・・・・総司くん』
「なぁに?」
『手、離して。』
「嫌だ。」

なんなの本当この男・・・
ため息をついて黙って総司くんの後をついていく。

「なまえちゃん、」
『・・・何?』
「ん、着いたよ」
『・・・・わっ・・・』

気分が重いまま見上げると潮の匂い

「綺麗でしょ?ここ」
『すごい綺麗・・・』

自慢げににっこりと笑う総司くんの隣で思わず口元が緩んだ。

「・・・なんだ、そんな表情出来るんじゃない」
『・・・え?』
「心から楽しそうな笑み」
『・・・っ』

思わず顔をそむけるけれど総司くんは満足そうにニコニコ笑っていて

『・・・なんでそんなに上機嫌なのよ』
「んー?きっとなまえちゃんが笑った顔見れたのって、転校してきて僕が初めてでしょ?」
『・・・そうかもね』
「それが嬉しいんだよ、二人だけの秘密、みたいでさ」

いつも人に向ける総司くんの笑みとは少し違う種類の笑みを浮かべる彼のセリフに思わず心が揺れ動く。

「・・・大体、あんな作り笑み浮かべるなんて胡散臭いよなまえちゃん。」
『それは総司くんしか思ってないでしょう?』
「そうだけどさ・・・君、可愛げ無いよね」
『余計なお世話。』

軽く総司くんの腕を叩くと少し顔をしかめる総司くん。

「・・・だから、・・・なんだよ」
『え?』

風に遮られた声が途切れ途切れ私の耳に届いて来て

総司くんの方を見ると、数秒だけ交わる視線。

その時の総司くんは少しだけ眉を下げながら微笑んでいた。

「・・・なんでもない。あ、なまえちゃん僕アイス食べたいな奢って?」
『・・彼女に奢るって気持ちはないの?』
「えー、嫌だよ面倒くさい。」

いつもどおりの彼にため息をつきながら
転校してきて、いやここ数年で初めて”楽しかった”という感情が湧いたのだった。

To be continue...

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