記憶
「おい、みょうじ」
『げ、』
それに捕まったのは放課後のことだ
部活へ走っていった千鶴を見送って
借りていた本を図書館に返しにいってさぁこれから帰ろうといった時だった。
「げ、とは随分な歓迎だな?」
『あはは・・・』
「来いみょうじ!!!」
土方先生の雷が鳴りそう(軽く鳴った)状態 で引きずられそうになり(軽く引きずられ)ながら私は古典準備室へと連れていかれた。
『やだー、私殺られるー。』
「何言ってんだてめぇ 」
心底疲れたようにため息をついて席に腰を掛けると土方先生は見覚えのある紙を出してきた
「お前だけだぞ、入部届けだしてねぇの」
『私は帰宅部所属なんですけど』
「そんな部活はねぇ、とっとと決めやがれ!! 」
とうとう怒鳴った土方先生にやれやれと肩をすくめてみせると彼はそれも気に食わないのかさらに眉間の皺が酷くなる。
「・・・お前のことを調べた」
『・・・なんにも疚しいことなんてしてないですよう、私。』
「・・・みょうじ。」
嗚呼、土方先生もそんな目をするんだ。沖田先輩が私によく向ける悲しそうな目。
『哀れまないでくださいよ、』
私が惨めになるだけなんですから。
そう言うと菫色の瞳が大きく見開かれる、先生も人の子なんだ。
「・・・ったく、一人前ぶってピアスまであけてよ」
『暗示ですよ、忘れないための』
私の髪を耳にかけた綺麗な指は私の耳たぶに触れるだけで悲痛そうな面持ちをした。
土方先生がそんなに悲痛そうになることではないのに。
「・・・・今月末までだ。」
『え?』
「今月末までに入る部活決めとけ」
そう言うと土方先生は少し雑にぐしゃりと私の髪を撫でた
見上げると哀れみがない目で優しく微笑んでくれていた。
記憶(あの時の私の傍に彼がいたら)
(どれだけ救われたのだろう ?)
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