逃避
「おう、千鶴・・と、みょうじか。」
『どうも。』
着いてすぐ現れたのは土方先生で疲れたように頭をかきながらこちらに目を向ける。・・・やっぱり怖い。
「・・・入部するのか?」
『多分しません』
「させますよ、僕が」
はぁ?!と叫びたい気持ちを抑えて沖田先輩を見つめれば沖田先輩は口元を緩めてなにか問題でもある?なんて聞いてくるものだから本当ため息も出てこない
「君が刀以外なんの取り柄があるのさ?」
『は?刀・・・?』
剣道部、だよね?刀ではなく竹刀の間違いじゃないの?そう頭に浮かぶ疑問が顔に出ていたのか沖田先輩は興味深そうにこちらを見てくる。っていうか刀以外に取り柄がないとか失礼だなこの男。
「へぇ、全部が全部覚えてるわけじゃないんだ」
『・・・意味わかんないんですけど。』
「大丈夫、こっちの話だから」
『はぁ、』
本当何、この先輩。
「ねぇ、手合わせしようよ」
『生憎今大怪我してるんです』
「何言ってるの?ピンピンしてるじゃない」
『沖田先輩には分からないですよ』
見えないんですから。
もう治ったと思ってたのに、また振れると信じていたのに、剣道場に来てから手の震えがとまらない。
「君はそうやって逃げるんだ」
『逃げてなんか・・・』
「逃げてるよ。」
その言葉は真っ直ぐで迷いなんかなくて間違ってなんかない。
あの日から、私はずっと逃げている。
逃避(私が犯した事だから逃げれない事などわかっているのに)
(それでもなお私はそれから逃げることを選んだ )
prev /
next