お誕生日、おめでとう






※夢主の誕生日のお話。我がサイトの夢主の誕生日は固定ですので、あんまりイメージを崩したくない方は読まないことをおススメします。





































「キュビット、起きてください」


「……ん〜……?」


珍しく今日は、サフィールに起こされた。
そのサフィールも、なぜかエプロンを装着していて、私は目を擦る。


「おはようございます。」


「おはよう…どうしたの?サフィール……エプロンなんて着けて…」


「今日の朝ご飯は私が作ったんですよ!」


「サフィールが?」


きょときょとと目を瞬かせた。
だって彼が料理するところを、私は見たことがない。
一緒に暮らし始めても、いつも私が料理を作っていたし。


「料理出来たっけ?」


私がそう尋ねると、彼は頬を赤く染めて、もじもじと言う。


「……実は…そのう。元はあまり上手く出来なかったんですよ。」


ああやっぱり。と思っていると、サフィールは突然胸を張る。


「ですが!2か月前頃から猛練習してました!食べれるものになっていると思います!」


キリッとしたサフィールの表情に、なんとなく期待できそうな気がしたから、


「ありがとう、サフィール。ね、ね、どんなお料理作ったの?」


「それはですね、見てからのお楽しみです!」


サフィールは嬉しそうに、私の手を引き、テーブルまで連れて行く。



「……わあ」


テーブルの上には、私がいつも作る量の二倍ほどの数の料理が並べられており、サフィールの頑張りが見てとれた。


「すごいね、こんなに。お正月だから?」


サフィールの方に振り向いて尋ねると、なぜか彼はぽかんと口を開けた。


「あ、あの、キュビット?……大事なこと、忘れてませんか?」


「大事なこと…?」


お正月。
お正月といえば餅つき、凧揚げ、羽根突き…。


……どれもそこまで大事だとは思えない。
私はギブアップして、首を横に振った。
するとサフィールはため息をついて、


「……今日はあなたの、誕生日でしょう?」


自分の誕生日も忘れるなんて、とサフィールは呆れ気味に言った。


「ああ、そっか。私の誕生日だったね。……なるほど、それで料理頑張ってくれたんだね」


そうだと分かった瞬間、私の胸にはさらに喜びで満ち溢れる。
本当の誕生日は分からないけれど、ちゃんと祝ってくれる事が嬉しくて。


「ありがとう、サフィール!…じゃあ、さっそく食べてもいいかな?」


私が席に座ると、サフィールも向かいに座る。


「はい。…誕生日、おめでとうございます!」


笑ったサフィールが、グラスを突き出す。
私もそれに応じるように、グラスを突き出して乾杯した。



サフィールの料理は想像よりもだいぶ美味しくて、それを伝えるとサフィールは嬉しそうに頬を赤く染めていた。


お話しながらご飯を食べていたけれど、途中でくら、と身体が熱くなって眠くなってくる。


「キュビット…どうしたんですか?」


「……んー…。なんか、眠くなってきて…」


うと、うと、と今にも目を閉じそうで。
ふらりと椅子から倒れそうになった私を、サフィールが抱きとめる。


「あなた…よく見ると顔が赤くなってるじゃないですか…!もしかして、お酒に弱かったんですか!?」


「おさ、け…」


そっか、グラスに入ってたあれ、ジュースじゃなくてお酒だったんだ。
サフィールのあったかい腕の中が心地よくて、私は目を閉じ、そのまま眠ってしまった。








「キュビット…お酒弱かったんですね。悪いことをしました…」


ふらふらとよたつきながらも、お酒で眠ってしまったキュビットをベッドに運んだサフィールは、彼女の赤い頬に掛かっているアンマルチア特有のメッシュが入った髪をはらう。
キュビットの髪は柔らかくて、サフィールは少し指先で弄ぶ。
すると彼女が少し身じろぎしたため、慌てて弄ぶのをやめる。


「起き…ましたか…?」


恐る恐る様子を見ていたが、目を開ける気配はない。サフィールはほっと胸を撫で下ろす。
すうすう、と穏やかな寝息を立てて眠っているキュビットを見ていると、胸が高鳴ってくる。


「……今なら……、もしかして、キスできる…?」


自分も酔いが回ってきたのか、邪な考えが浮かんで、サフィールは慌てて頭を振る。だめだ、そんなの。まだ起きている時すらしたことがないのに。


けれども、薄く開かれた桃色の唇を見ていると、してみたくなる衝動に駆られる。


「………。」


迷った末、サフィールは桃色がかった白銀の髪を耳にかけると、眠り姫のように眠っているキュビットに顔を近づける。


今は閉じられている緑の瞳を飾っている綺麗な睫毛がすぐ近くにあり、サフィールはごくりと唾を飲む。

心臓の鼓動がうるさい。

ぎゅ、と目を固く瞑りそのまま、キュビットの唇に口付けた。
…柔らかい。


鼻孔を、先ほど飲んだ酒の匂いがくすぐっていく。


そこまで酒に酔っていなかった筈が、酔いが回ったようにふんわりとした意識で夢中で軽く唇を押し付けたまま、キュビットの唇の柔らかさをしばらく堪能してから、サフィールは唇を離す。


「ああああ…やってしまった…」


離してから恥ずかしさが込み上げ、サフィールは口元を手で押さえて誤魔化すように先ほどまで食事をしていたテーブルの椅子に座る。


ばれていませんように。


今彼の頭にはそれしかなくて、目の前の食器を片付けるなんて考えはしばらく浮かんでこなかった。


















「頭、痛い…。」


結局、私が起きたのは夕方くらいみたいだった。


テーブルに戻ってくると、サフィールは食器の片付けられたテーブルをただただじーっと見つめながら座っていた。


「おはよーサフィール…」


挨拶すると、彼の肩がビク!と跳ね上がる。
そしておろおろと挙動不審になりながら、


「おっ、おはようございますキュビット!その、気分はどうですか!?」


と聞いてきたので素直に、


「頭、ちょっと痛いかな。」


と答えると、サフィールは不安そうな顔をする。私は「問題ないよ、大丈夫」と付け足した。


「でも、まだ辛いんでしょう?無理せずに、寝ていていいですよ」


「…ごめんね、折角サフィールが私の誕生日を祝って色々頑張ってくれたのに…今日ほとんど寝ちゃってて…」


「いえ…」


ガタ、と席を立つ音が聞こえて、サフィールは立ち上がる。
そして、遠慮がちに私を抱き寄せた。


「今日はあなたのための日ですから、あなたの好きなようにしてくれていいんです。私は…あなたが生まれてきてくれて嬉しいですから。…そして、この世界に来てくれてありがとうございます。」


サフィールのその言葉が嬉しくて、私は自然と笑みを浮かべる。
そしてぎゅ、と私からもサフィールを抱き締めると、またサフィールは驚いたようにびくりと跳ね上がったけど、私を包む手に力を込めた。


「……サフィール、私、嬉しいよ。ありがとう、大好き!」


見上げると、サフィールは照れたように笑いながら、


「私も、キュビットが大好きですよ!」


と柔らかい声で言ってくれて、私も照れてサフィールの胸に頬を擦りつけた。





(……よかった。キスのこと、ばれてませんね)



サフィールが心の中で胸を撫で下ろした事は、キュビットは知らない…。






お誕生日、おめでとう





ということで、サフィールがキュビットの誕生日をお祝いするお話でした。サフィールにとっての初ちゅーはここです。キュビットは意識がなかったので、本編でされたのを初めてだと思っているご様子。




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