調和






母上が私を庇って死んでから、私の写輪眼は変わったという。
…その変化は私自身も感じていた。


戦場に立った時、見えたのだ。
戦場の崖が崩れて、味方が大勢死ぬ所を。


それをマダラに伝えたら、彼は半信半疑ながらもそこに送った味方を引いてくれた。
その約15分後に本当に崖が崩れた。味方を退避させていなかったら本当に、沢山の味方が死んでいた……。


それで、なんとなく分かった。
私のこの眼は、未来を見れる。
そして、見えた未来の一部を行動次第で変えられるということも。
けれどどうやら、未来を見た後は眼がひどく痛むようだ。
右目に走った激痛でしゃがみ込んだ私を、マダラが「大丈夫か」と心配しながら肩を貸し、労わりながら歩いてくれた。

帰ってからもふらふらして、私のあまりに疲労した姿を見たマダラには、もうその能力は使うな。と注意をされてしまった。




その後も戦いに明け暮れ…ある日の事だった。


カエデとイズナが、千手の者に斬られた。
他の敵に気を取られていて、そこまで気が回っていなかった。
姉として情けない。


「カエデ!」


「イズナ!」


マダラと私はすぐさま二人に駆け寄り、動揺しながらも、私はカエデを背負う。
その様子を見ていた柱間が口を開いた。


「マダラ…お前は俺には勝てない…もう…終わりにしよう…
忍最強のうちはと千手が組めば…国も我々と見合う他の忍一族を見つけられなくなる…
いずれ争いも沈静化していく」


そうなったら、どれだけいい事か。争いがなくなる。私とカエデがいつも願っていた事だ。


「さあ…」


柱間が、手を差し出す。


ちらりとマダラを見ると、マダラもイズナに肩を貸しながらも手を取るか迷っているようだった。
けれど口からまた新しく血を吐いたイズナが、


「…ダメだ兄さん…奴らに騙されるな…」


とマダラを制する。
マダラはハッとした顔をして、


「イノリ」


引くぞ。
小さくそう言って、煙玉を割った。
その煙に紛れ、私達は姿を消した。

















「カエデ…あなたの傷もまだ塞がってないのに、無理をしたら…」


「姉様…心配してくれて…ありがとう、ございます。……けれど…このままじゃ、イズナ様が…死んでしまいます…」


息も切れ切れに、カエデがイズナに医療忍術を施していた。
弱っているのにチャクラを酷使するカエデの顔色は、どんどん悪くなっていく。


「…うっ…」


カエデの懸命な治療のおかげで、戦場から帰還したきり意識を失っていたイズナが、目を開ける。


「イズナ!」


ずっと心配そうな顔をしてイズナの側についていたマダラが、安堵したような表情を浮かべた。
カエデもふう、と息をつくとふらりと後ろに倒れる。
私が慌てて受け止めると、カエデは「イズナ様…よかった…」と呟いて目を閉じた。


「カエデ…?」


カエデは目を開かない。


「カエデ、カエデ…!」


何度声を掛けても目覚めない。
まさか、死んでしまったの?
嫌だ、考えたくない。
私の、たった一人の妹。
もう失いたくない、唯一無二の家族。


「イノリ、…カエデを見せてみろ」


マダラはそう言って、カエデの手首に指を当てしばらく黙ると、


「大丈夫、気を失っているだけだ…」


と私に伝えた。
…ああ、私は気が動転していたんだ。
カエデのその僅かな鼓動に気付いてあげられないなんて。

私はよかった、よかったとカエデを抱き締め直した。


…しかし、その後もカエデの体調が思わしくなく。
カエデに回復されたイズナさえも、じわじわと弱っているという。


このままじゃ、二人とも…。
不安で仕方がなくなった私は、鏡の前で万華鏡写輪眼になる。


「未来を見せて、私…」


カミムスビ。


鏡の中の私を通して、未来の映像が流れ込んでくる。


「……!」


その映像は私にとって、ひやりと冷たくて、とても絶望的なものだった。
私は鏡の前から立ち上がると、マダラの元へと駆けていく。
マダラの部屋の障子を勢いよく開け、


「マダラ!」


「!イノリ!?」


そのままの勢いで、マダラに抱きつく。
そして彼を見上げると、彼は驚いた顔をした。


「お前その眼…!もう万華鏡は使うなと言っただろう!?」


慌てて来たものだから、万華鏡をしまい忘れていたようだ。
けど今はそんな事よりも。


「マダラ、一刻も早く千手と協定を結んで!もう、うちはにはカエデ以上の医療忍者はいないから、カエデは私の大切な妹だから…!!」


万華鏡の赤い瞳で泣きそうになりながら、必死に訴えかける。
すると彼はそんな私を抱き締めて、私とは対照的に冷静に問いかける。


「イノリ…お前一体、その万華鏡で何が見えた?」


「カエデと…イズナが、死んでしまうのを見たの…それでその後、戦争が激化して…」


「何…!?」


それは本当か、とマダラは涙目の私を見つめる。
私は頷いて、


「カエデ自体も弱ってるし、二人共このままじゃ本当に死んでしまうわ!だから、千手と協力して二人を治したいの!だから…!」


「イノリ…。お前の万華鏡の未来視は確か、ほぼ確実に的中するんだったな。」


「うん…」


「そして未来の一部は、行動次第で変えられる…」


「うんっ…」


大きく頷くと、マダラは少しの間目を閉じ、また開いた時にこう言った。


「…千手の方が優秀な医療忍者が多い。それでイズナとカエデが助かるのなら…千手と協力する。」


マダラの答えに、私は希望の光が射した気がした。
カエデとイズナが助かるだけじゃなく、柱間が言ったように戦争自体も収束していく。


「ありがとう…マダラ、ありがとう…」


ついに涙が溢れて、また彼の胸に顔を埋めた。









…その後、正式に千手と協定を結び、千手の人達にカエデとイズナを回復してもらった。
おかげで段々と二人とも、快方に向かっている。争いも収まり、うちはと千手とが協力して里を作った。






「それにしてもマダラ、こんなに素敵なことを考えていたのなら、私に教えてくれればよかったのに。」


里作りの作業の休憩に、マダラと里を見渡せる高台に登って、うちはと千手が作り上げた里を見ながら二人で座り込んで話をしていた。


「いや、この里の構想を考えたのは柱間だからな…」


「それでもさ、…私がお勉強してる内に二人で素敵な夢の話するなんて、私もその場で聞いてみたいと思ったわ。」


眼下には、アカデミーの子供たちが見える。
私達と同じく昼休憩なのか、外で追いかけっこをして遊んでいた。



「勉強…か。そういえばイノリ、勉強とは具体的にどんなことを?」


「あーそれは…料理とか…うん、マダラが想像してるお勉強とは違うと思うわ。」


「そうか…」


マダラはしばらく考えた後、何か思い出したように私を見た。


「……イノリ、まだ俺達は結婚した事にはなっていなかったな」


「へ、…あ、そうね。まだ約束だけで…」


戦時中で、結婚などしている暇がなかった。
結局親達は、私達の晴れ姿を見ることなく死んでいってしまった。
それについては申し訳ない。母上は、私の晴れ姿を楽しみにしながら色んなことをたくさん教えてくれたのに。


「……親がいなくなった今、必ずしも俺と結婚しなくてもいいが…」


「何言ってるの?マダラ。…私、あなたとならずっと一緒にいたいわよ?」


にこりと笑ってマダラを見ると、彼は久しぶりに穏やかな笑みを見せた。


「…さっきのは一応聞いてみただけだ。俺もイノリと一緒にいたい。」


マダラがそっと私を抱き締めた。


マダラの体温、マダラの匂いを感じて、カアアと顔に熱が上がっていく。
やっぱり、こうやって恋人の雰囲気になるのは慣れない。
恥ずかしくて彼の胸に顔を埋めたけど、私はもごもごと、


「マダラ…好き」


と呟いた。それだけでも顔から火が出そうなのに、マダラに顔を上げさせられる。
彼と目が合って、ドキリとしている間に顔が近づいて、唇に柔らかいものが触れていた。


「んっ…!?」


これは…これは、口付けだ…間違いない。
しばらく唇を重ねられた後、マダラはやっと口を離した。


「マ、ママママ…マダラ…!?」


さらに火でも噴きそうな程顔が熱くなってしまう。それを見てマダラは吹き出した。


「本当に慣れないんだな、こういう事」


「ば…ば、馬鹿ぁ!」


ぎゅ、とマダラの服を握る。


「ははっ…すまない。イノリ、俺もお前が好きだ。」


結婚しよう。


その言葉に、私は嬉しくて笑顔になる。


「…はいっ!」


私は大きく頷く。


風が二人を祝福するように、穏やかに吹いていた。











ということで、IFルート。もしもイズナ達が死ななかったら編でした。
千手との協定も早く、このまま進めばマダラも里に永住して幸せに暮らします。
こういうルート欲しかったんだ…


イノリはマダラの許嫁で幼馴染みたいな関係なので、基本的にマダラはイノリに対してデレ…優しいです。戦争終わった後はさらに穏やかになるという。


そしてイノリの万華鏡…カミムスビは、未来と過去を覗ける能力です。
覗いた未来はほぼ確実に当たります。覗いた未来を自分の行動次第で変えることも出来ますが、どこかで当たってしまったりします。だからもしかしたら、またどこかで戦争が起こるかも。
リスクは大量にチャクラを消費する、眼球への負荷、使えば使うほど失明していく、未来や過去を覗いた時、それがあまりに辛いものだとメンタル面に傷がつくといったところです。




prev| next









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -