いつも蒸し暑いダアトに、通り雨が降った。


外にいた人が教会内など屋内に避難する中、私は雨に惹かれるようにふらふらと教会の外へ出る。



サァァァ、と室内の陰気な空気にあてられた私の身体を冷たい雨が濡らし、心地よくて目を閉じる。



「──何、してるんですか」


後ろの方から声をかけられ、振り向くと珍しく譜業の椅子に座っていない私の上司が壁に寄りかかっていた。


……彼がいる場所は、雨には濡れない。
まぁ、濡れたくないだろうな、ディスト様なら。


「ちょーっと、研究室の陰気な空気にあてられた身体を浄化しようと思いまして。」


「私の素晴らしい研究をしている部屋を、陰気だとはいい度胸ですね。」


瞬時に不機嫌そうな顔をしたディスト様が、ちょっと面白くて私はくすくすと笑った。
そうしたら彼は、「何が可笑しいんですか!!」と眉をつり上げ怒り始める。
いえいえ、何でもありませんよー。と私は軽く流した。



「……私ね、雨って結構好きなんですよ。蒸し暑いダアトを少しの間冷やしてくれる。」


「その代わり、上がったらさらに蒸し暑くなる。それに、譜業だって雨に濡れればダメになる。……だから私は雨が嫌いです。」


恨めしそうに、雨粒を降らす灰色の雲を彼は見上げた。


「……ほんと、そんなしつこい所もそっくり。だから、私は雨が大好き。」


そう言ってから彼の表情を伺ったが、彼は怪訝そうな顔をしていた。
……ああ、意味わかってないな。


ふぅ、と私はため息をついて雨の当たらないディスト様の隣まで移動した。


「……びしょ濡れじゃないですか。風邪引きますよ。」


屋内に移動したらどうですか?
とディスト様は隣の私を見つめながら言った。


「心配してくれてありがとうございます。でも、雨が降っている間は外に居たいんです。」


こうして話している間に、雨はずいぶんと小降りになった。


ああ、もうすぐ上がってしまうんだな。
そしてまた、しつこい蒸し暑さがダアトを包むのだろう。



「フィオナ、戻りましょう。外はもうじき蒸し暑くなります。そんな場所にいるよりも、冷房機関のある私の部屋の方がマシでしょう?」


「待って、もうちょっと。」


教会内に戻ろうとしたディスト様の腕をがしりと掴む。
何ですか。と彼が眉を潜めている間に、雲の切れ間から日射しが射し込んでくる。


雨が上がったダアトの教会の前の広場をうろちょろして、私はある場所で立ち止まる。
そして、ディスト様を手招きした。


「だから、何ですか。」


「ほら、この角度。この角度からだと虹が見えますよ。」


ディスト様を、私とおんなじ方向に向かせた。


きっと彼の瞳にも、綺麗な虹が映っている筈だ。



「どんよりした中にも、綺麗なピュアな心があるんだよねぇ。」


「は……?」


やっぱり、ディスト様はよく分かっていないようだった。


「……分からないならそれでいいですけど、いつか分かってくださいね。じゃ、行きましょうか。研究室に戻るんでしょ?」


「え、ええ……。今日のフィオナはいつにも増してよく分かりませんね……」


私とディスト様は教会に帰った。
歩いている途中、窓から雨が上がったばかりの綺麗な世界を見つめた。




……いつか私の恋も、日が射してくれたらいいのになぁと思いながら。








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フォルダの中に眠っていたのでうp。
梅雨の時期だしちょうどいいかなと思いまして。




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