※来神
 「苦労性ディスタンス」の二人
 キレない静雄とツンデレしゅん臨也
 ほんの少しだけ進展













「手前、いい加減にしろよ」



凛とした声が教室に響く。
時刻は昼休み。
教室内では既に昼食を広げようとする者、他クラスから顔を覗かせる者、各々動き出していた。
そんな穏やかな空気をピタリと止めたのは声の主、静雄だった。


最近の静雄はかなり大人しい。
来神高校生の間では専らの噂だ。
正確には彼ではなく彼を煽りに煽って暴れさせていた人間が大人しくなった為必然的にそうなっただけなのだが。
そして今、その険呑な雰囲気の中心にいるのがその人、折原臨也である。


その事は広く知られていないが二人をよく知る友人、新羅と門田だけは知っていた。
あんな危ない関係だった筈の二人が何故こうなったのか、それは静雄が臨也に好意を抱いたからだ。
よって静雄が臨也に好意を持てば友人達が後押しをし、くっつく事は至極普通の事だった。
付き合い出せば普段大人しく心根の優しい静雄は臨也のひん曲がった性格を正しく理解し始め、臨也の本音が言動の真逆を行っているということに気付いて喧嘩を回避するようになった。
沸点の低い彼がよく此処まで成長したものだと新羅は感心した。
だが困った事に臨也の方は全く進歩がなかった。
そればかりか静雄との近づけば近づく程照れ隠しに拍車が掛かり質は変わるが悪態が増していったのだ。


そして今日も例によって臨也の悪癖が始まり、遂に静雄がキレた。


悪態を言うだけ言って逃げるようにその場から離れる筈の臨也は静雄の剣幕にピタリと喋る事を止めた。
怒り狂うか苛々する程でしか静雄の怒りを垣間見た事の無い臨也はオロオロ視線をさ迷わせている。
あーあ、新羅が静雄の後ろで気まずそうに肩を落とした。
静雄は舌打ちを一つしてその場から早足で離れていきそれを臨也は引き止めようと口を開き掛けたものの結局何も出来ず背中を見送った。。
仕舞いには静雄のいなくなったしんとした教室でグスリと鼻を啜り泣き始めた。

「あー、君ってば本当に不器用だよねぇ」

「っ……ふ、」

一般生徒から見れば鬼の目にも……いや、悪魔の目にも涙、な光景なのだが周囲は巻き込まれて堪るかと我関せずを突き通している。
と、タイミングが良いのか悪いのか、そこへ門田がやってきた。
入って来て見るなり臨也が泣いているので一瞬目を見張った彼だったが大体の予想はついてしまったようで。
やれやれ、と溜め息を吐いて臨也の頭に手を置いた。

「なんだまた静雄になんか言っちまったのか」

「あぅ……ぐっ、ドタチ……」

ぎゅう、と門田にしがみつく。
それが臨也にとって恋愛対象外である証なんて何ともあまのじゃくな奴だと二人は顔を見合わせた。

「しずちゃ……俺、きらわれちゃった…ぁ」

どうしよう、どうしようと泣きながら震えている臨也を落ち着かせるようにして困ったように門田は頭を撫で続けている。
門田は同級生だというのに何故か臨也の保護者の立ち位置にいる。
普段から臨也も門田には懐いていたし、その光景は見慣れたものなのだが……。

(喧嘩の原因……臨也分かってないのかな)

今回の喧嘩の発端はまさにこれなのだ。
何かと友人の少ない三人+門田で絡む事が多い為静雄も門田と臨也が仲良くくっついたり、甘えたりを見ている訳だ。
いつもの事だと静雄も割り切っていたが流石に毎回毎回可愛い恋人と数少ない友人の一人が自分よりもキャッキャッウフフやっていたら誰しも平気な筈もなく。
最近は二人が本当の恋人同士に見えてきたと呟いては「門田は父親、門田は父親、お義父さんお義父さんオトウサン……」と念仏を唱えていたのを新羅だけは知っていた。
本来静雄はかなりの短気なのだ。
それがここまで我慢を覚えるなんて愛の力(笑)って本当に偉大だよね、セルティ!なんて暢気に構えていた新羅でさえ同情を抱いた。

本当に、彼は苦労体質だよねぇなんて新羅は臨也を門田に任せきっと屋上へ向かったであろう静雄に会いにいった。



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