見渡せば君 | ナノ


通行止め  







昼休みを利用して屋上で昼寝。これは俺の日課になる。午前中は二限まで登校せず、三、四限を堂々と寝て過ごしそのまま終業チャイムが鳴るまで授業に出ない。放課後は生徒会長の嫁(予定)のツンデレ矯正に付き合い時間が潰れる。こうやって振り返ってみると俺ってずっと寝てんじゃねーかと苦笑してみたが現状どうにもならず溜め息を吐く。欠点とか留年なんぞは気にしていない。天霧の旦那もそうだが、きっと俺も風間に付いて一緒に留年する羽目になるだろうことは目に見えていた。階段を上る。俺が向かおうとしている屋上は関係者以外立ち入り禁止になっているが、関係者って誰だよと一人でこの場に居ない誰かさんに突っ込みを入れたところで背後から声が掛かった。


「不知火匡」

「ん?」

「何をしている」

「あァ?昼休みに何しようが俺の勝手だろ」


我が校のジャスティス長者原君、ではないが、校内の規律そのものと言ってしまって過言では無いような人間が目くじらを立てて俺を睨んでいた。斎藤一。風紀委員長。これまた間の悪い。こいつに捕まってしまったら嫌でも午後の授業に参加せざるを得なくなる。マジかよ。急遽降り掛かった災厄にどう対処しようか悩みながら奴の出方を見た。


「……屋上は立ち入り禁止だと、何度注意すれば気が済むのだ」

「んなもん、生徒会の特権でどうにでも、」

「生徒会とは生徒が成す組織だ。特権とやらがどれ程の効力を持つのかは知らぬが、しかし先生方の定めた規律に反して良いはずがなかろう」

「……」

「それに不知火、あんたは今日も授業に出ていないそうだな。これも何度言わせれば気が済むのだ。大体あんたは、」

「あー!そういやさっき沖田!沖田見かけたぜ!何か楽しそうに本読んでたなぁ!確か『豊玉発句集』とかなんとか書いてあっ……、」

「何ッ!?またか総司の奴!」


血相変えて走り去っていく長者原こと斎藤に階段落ちるなよーと声を掛け見送った。あの風紀委員長が段差を転がり落ちる様は見てみたいようで絶対見たくないものに分類されるが、まあ俺が促すまでもなくそうならないことは明白なので気にせずその場を後にする。屋上へ行くにもたった今斎藤の目に引っ掛かっているのでしばらく自重すべきだ。これで風紀が厳しくなって明日から立ち入り本気で不可になっても困る。さて何処で何をして暇を潰そうかと校内をブラブラ散策していると目の前の角を右に曲がった先で錆び付いた扉を発見した。


「……裏庭か」


まあ、悪くねえ。昼寝をする分には。
見た目より重い扉を片手で開き外へ出る。裏庭だけあって扉の内は暗かった。そのため急に差し込んできた陽光の刺激に目の反応が追い付かない。思わず瞬いた。


「へえ、結構手入れされてるんだな」


光の調節を完了させ見渡す。草とか木とか、ある程度放置されているものとばかり思っていたが中々綺麗に並んでいた。意外だ。誰が手入れしているのかは知らないがマメだなと感嘆の息を漏らす。


「ここのお庭、最初は草とかがね、結構生え散らかってたんですよ。抜くの大変だった」

「そうなのか……って、」

「こんにちは」


振り返る。これと言って、大した特徴も無い女子が立っていた。見たところ生徒だ。左腕に腕章が無いことを確認して胸を撫で下ろす。


「私、園芸部なの」

「……そうか」

「うん。ここ、園芸部以外立ち入り禁止」

「……そうか」

「うん。でも、お庭誉めてくれたから特別」

「特別?」

「うん。特別入園許可」

「良いのか」

「うん」


良いらしい。
私、部長さんだから。
はにかみながら言う女子生徒に背を向ける。もうすぐ五時限のチャイムが鳴るだろうこの時間帯に人が居るなんて思ってなかった。園芸部と聞いて納得はしたがしかし、今は自分以外の誰かが存在する空間になど居たくない。屋上も駄目、裏庭も同じく。さて何処へ向かおうかと思案しながら校舎入り口へと歩を進めると、


「……」


通行を妨害された。
さっきの女子生徒に。


「何か用か?」

「え?あ……こ、九日十日?」

「ハァ?」

「?」


止めておいて首を傾げる女子生徒。何か用か九日十日。ことわざテストの答え合わせなら小学校でやってくれ。


「用事があって、来たんじゃないのかな、裏庭」

「誰が」

「貴方が」

「……いや、校舎内ブラついてただけだぜ」

「あ、そうなんだ……ごめん」

「別に怒ってねえよ」

「うん……」


今度は困った顔で俯いてしまう。俺にどうしろと言うのか。とにかく女子生徒を避けて中へ戻る。今度は妨害も無くスムーズに通り抜けた。
しかし――








通行止め


『ばいばい』

蚊の鳴くような細い声が聞こえて、妨害が無いにも関わらず両の足にブレーキが掛かった。





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