※最強コンビ贔屓の現パロ(祓ったれ本舗ネタです)
※前作はこちら



カシャ、パシャ、ピピッ…カシャッ、

大きなシャッター音とけたたましいフラッシュが明滅するスタジオ。
今日はその中心に、五条さんと夏油さんが涼しげな顔で立っていた。
一流モデルの撮影に見えるけれど、二人の本業は一応芸人。二人揃って「祓ったれ本舗」、です。

「いやあ〜祓本のふたり、何しても絵になるから撮り過ぎちゃうよ〜!一旦休憩入れようか!」

気難しいことで有名なカメラマンですら唸らせる勢い。
この二人、本当に最強だな…そして私は、そんな最強な彼らのマネージャー。

休憩の号令とともに「お疲れさまです」と大勢のスタッフから投げかけられる挨拶を受け流しながら、でかい二人がずんずんこっちに歩いてくる。……お二人共、休憩スペースはあっちですよ。

「マネージャー!ちゃんと見てたか!?」
「結構頑張ったんだけど」

撮影用に、いつも以上に綺麗に整えられたビジュアル。圧がすごい。眩しい。目が開かない。

「よ、よかったです!とっても!」

目を細めて精一杯の回答をすれば、五条さんは思い切り不満そうなかおをして顔を覗き込んできた。本当に、ただただ、顔の圧がすごい。

「はぁ?もっとかっこよかったーとか、抱いてーとか濡れたーとかあるだろ!?」
「五条さんにそんなセクハラ発言できません…!」
「抱いてって言えよ!」
「悟、それがセクハラだよ」

誉められ足りないらしい、ご乱心の五条さんを夏油さんがなだめてくれる。
一段落したかと思いきや、五条さんを押しのけるようにして、今度は夏油さんが私の顔を覗き込んできた。

「次の私の撮影、オフィスラブをイメージした撮影だよね…ねぇマネージャー、相手役のイメージがほしいんだけど、撮影のとき近くにいててもらえないかな?」
「えっ…私がですか?」
「実際に相手役がいてくれた方が、良い絵になると思うんだよね」

なるほど、たしかにイメージは大事かも。私で良ければ、と二つ返事で頷く。
担当タレントの円滑な仕事のサポートも、マネージャーの重要な仕事のひとつだし。

「一応、監督さんに伝えてきますね」
「あぁ、それはもう快諾してもらってるよ」

……あ、そもそも私に拒否権なかったんですね。
ソウデスカ、と返事をすると、なにがおかしいのかクスクス笑われた。
夏油さんもちゃっかりしてるというか、強引なところがあるような…さすがは五条さんの相方。

「おいマネージャー!!俺の時もそうしろ!!」

そして今度は、飲み物を取りに行ったはずの五条さんが遠くから元気に叫んでいる。地獄耳だなぁ……。
周りのスタッフさんは『五条さん可愛い〜』って眺めてるし…甘やかされてる…。
もちろん良い撮影のためなら私にできることはしたいけれど、でも、五条さんの次のカットって…、

「五条さんのカットのお相手は、手タレさん(ハンドモデル)ですよ」

ストーリー性のある夏油さんのカットとは毛色が変わって、五条さんはセクシー寄りのイメージ写真をリクエストされてる。
今回はよくあるグロスのイメージポスターみたいな感じで、肌蹴た五条さんの唇に女性の手を添わせるようなイメージラフが届いていたはず…。手元の資料に間違いはない。
首をかしげる私をみて、五条さんは長い手足をバタつかせて駄々をこねた。

「はぁ!?マネージャー相手ならもっとすげぇ写真にできるんですけど!?」
「それは本当かな、五条くん!?」

どこから飛んできたのか、現場監督が興奮した様子で五条さんの言葉に乗っかってきた。
…あ、これ、よくない流れじゃないかな。

「まかせてください、僕、最強なんで」
「さすが五条くん!ぜひお願いするよ!マネージャーくんも、もちろんいいよね!」
「はぁ…?」

現場監督と五条さんにタッグを組まれてしまった。この現場、私に拒否権は一切ない。
嵐のような展開に呆然と固まってしまった私の頭を、呆れ顔の夏油さんがよしよしと撫でてくれた。



タレントの撮影に全力でモデルとして使われるマネージャーなんて聞いたことない、そう言って粘った私の努力も虚しく、周りスタッフ全員の悪ノリに流され、スタイリングもメイクもすごい勢いでばっちり施されてしまった。プロの技術はすごい。

「…すごい。私じゃないみたい」
「うん、すごく可愛いよ、マネージャー」
「あはは、馬子にも衣装ですね…」

そんなにストレートに誉められると恥ずかしい。
熱くなった顔をごまかすように笑って振り返ると、涼しげな顔で誉めてくれる夏油さんの後ろに、私を見たまま固まってしまっている五条さんが立っていた。…表情が読めない。

「……五条さん?」

様子がおかしいので名前を呼ぶと、ハッと我に返ったのか、あわあわと動き始めた。
よかった、体調が悪いわけでは無さそう。

「っい、いいんじゃねぇの!?!?おら!スタジオ戻るぞ!」
「わ…!」

寧ろ急に元気になった五条さんに手首を掴まれスタジオに引っ張り出されると、スタッフの方々が口々に迎え入れてくれた。
いつもは私も迎え入れる側なのに、なんだか恥ずかしい。
ここに立ってて、と指定された壁際に立てば、四方八方からライトが当てられた。

「……う、わ…」

見慣れた現場なのに、立つ場所が違うだけで全然知らない場所に見える。
この場にいる人みんなの視線がこちらに集中していて、一気に身体が硬直するのが分かった。メイクさんや衣装さんが最終調整を入れながら楽しそうに声をかけてくれたけれど、がちがちになった身体は全く緩まない。

「五条さんお願いしまーす」
「はーい」

カメラ側から歩いてくる五条さん。
ラフで見た姿と同じく、黒くて細身のスキニーに、大きめのシャツ。前を大きく開けて、ちらちら見える肌は陶器みたいに白くて綺麗で、直視できない…。
思わず見惚れてしまった私の前に立つと、五条さんはニヤリと笑った。

「…なに、やっと抱かれたくなった?」
「…!」

私の顎に指をかけ、くいっと引き上げられれば、至近距離で見つめられる。
色気のある低い声で囁かれて、何が起こったのか脳内処理が追いつかない。

「ほら、身体緩めろ。緊張しすぎ」
「は、はい…」

するりと長い腕が背中に回り、とんとん、とあやすように優しく叩かれる。
息を吐いてなんとか肩の力をぬくと、よし、と笑った五条さんはそのまま手を私の腰を抱いて、少し引き寄せてきた。

「…大丈夫。俺に身体預けてろ」
「……っこう、ですか…?」
「…ッ、上出来」

なるべく力を抜いて五条さんに従い、目の前の胸板に軽く額をつけて身体を預ければ耳元に吐息が落ちてきた。……こ、これ、まずくないですか。
ちらりと五条さんの脇からスタジオの様子を伺うと、メイクさんやアシスタントさんが口元を抑えてかじりついて見ている。……私もそっち側に行きたい。
というか、いつの間に撮影が始まっていたのか、いたるところからカメラのシャッターがきられる音が響いていた。

「!」

腰を抱いている手と反対側の手が私の手首を撫でると、そのまま指を絡ませるように繋がれた。無意識に握り返すと、そのまま上へ引っ張られる。

「ご、五条さん、」
「大丈夫。お前の顔は絶対映さないって約束してるし」

私の手の甲がとん、と背後にある壁に当たって、押さえつけられているような体勢になる。
勇気を振り絞って見上げた五条さんの顔は、いつもの気怠げな表情は消え、しっかり仕事のスイッチの入った、男の人の顔だった。
目があうと、ニヤリと笑う。…な、なんだかこのまま食べられそうな気持ち。思わずこっそり息を呑んだ。

「やばい、俺この撮影超たのしーわ」
「……よ、よかったです…」

小さな声でいつものように話しかけてくれる五条さんは、もともと肌蹴ていたシャツを更にずらして、挑発するような顔でカメラを流し見る。
五条さんが手取り足取りリードしてくれるおかげで、気付けば緊張は解けていた。
段々と落ち着きを取り戻した私は、改めて目の前の五条さんの仕事ぶりを間近で拝見する。
やっぱり五条さんはすごいなぁ。いつの間にか、モデルさんのお仕事だってこんなに立派にこなしてくれるようになった。

……それに、やっぱりきれいな顔してる。
思わずじぃっと見入っていると、私の視線に気づいた五条さんが視線を落とす。
視線も絡み合ったまま、伏し目がちになった五条さんが、絡んでいた指を離して、両腕の間に私を閉じ込めるようにして腰を屈め、五条さんの吐息が私の唇に……、

「最ッッッ高だよ五条くん!!!!」
「……チッ………あはは、ありがとーございまーす」
「……ひ、ぇ…」

唇が触れる直前で監督の大声がスタジオに響き、五条さんは本当に小さく舌打ちすると、パッと私から離れてカメラチェックに向かってしまった。
情けない声を漏らして動けなくなった私の周りに、メイクさんたちが集まる。

「今、いまキスしました!?」
「五条悟がこんっなに女性と絡む現場、初めて見ました…!」
「やばい…仕事ってこと忘れちゃいました…」
「マネージャーさんも早く写真見ましょう!」

引っ張られるようにしてモニターの前、五条さんの横に連れて行かれる。
画面にたくさん写っている写真は、どれもがさっきまで自分と五条さんの一瞬一瞬が切り取られている。
上手に私の顔は見えないようになってるけれど…それよりも五条さんの写りが、良すぎる。

「五条くん!今日の写真、芸歴史上最高じゃない!?」
「いやー、僕もそう思いますねー」
「マネージャーくんもお疲れ様!いやぁ、担当タレントの魅力をこんっなに引き出せるなんて、さすがは祓本のマネージャー!」
「いえ、私ではなく五条が…
「この後の夏油くんとの撮影もよろしく頼んだよ!今回の号はミリオン超えるぞー!!!!」

監督、話を聞いてない…。
おー!!と、被写体を置き去りにして現場一体が盛り上がっている。未だ呆然としている私の後ろから、お疲れ、と冷たいコーヒーが出てきた。

「わ、ありがとうございます、夏油さん」
「すごくよかったよ、妬いちゃうくらい。……悟は調子に乗りすぎ」

コーヒーを受け取りホッと一息つくと、夏油さんが五条さんの肩を小突く。
振り返った五条さんはいつになくごきげんな笑顔を浮かべていた。

「俺良し、ファン良し、現場良し。最高だろ?」
「はぁ…」
「なるほど、たしかにファンの方も喜んでくれますね!」
「マネージャーはチョロすぎだよ」

そしてその後の夏油さんとの撮影も、そばに立っておけばいいだけだと思いきや、なぜかOLさんの格好をさせられ、五条さんとの撮影同様思い切りセット内に立たされ、夏油さん扮するセクシーなイケメン上司に腰を抜かされてしまった。
普段無害ですって顔をした夏油さんが、本気を出すと、すごかった。



こうして(主に私が)紆余曲折を乗り越え完成した雑誌は、事前に出された予告カットだけで予約殺到、増版決定。
無事発売日を迎えると、出版業界における数多の記録を塗り替える勢いで飛ぶように売れた。風のうわさでギネスに認定されるって聞いたけど、真偽はまだわからない。

『祓本って過度な女性絡みNGじゃなかったっけ!?』
『五条悟を本気にさせた相手役って誰!?』
『っていうかこれキスしてない!?』
『傑やばいんだけど…抱いてほしい…』
『っていうかこの本R指定じゃない?』

現場、街なか、SNS…どこに行っても聞こえてくるこの声。
あの日の撮影のことは墓場までもっていこうと、心に決めたのだった。


「…五条さん、夏油さん?!なんですかその画像は!?」
「あ?よく映ってるだろ。この前のオフショット」
「カメラマンに言ったら高画質で送ってくれたよ」
「私の顔まではっきりと…!」
「だからオフショットなんだよ。誰にも見せね―」
「右に同じく」


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