痛みに気づかないフリをする(BotW)


丸い、あの祠とおなじ、青い目が大きく見開かれた。きっとまたひとつ記憶を取り戻したのだろうと彼を見上げる。何かに耐えるような顔をしていた。それからその目は静かに巨大なからくり……神獣を見据える。あそこに俺のやるべきことはない。彼があそこに行くのなら、俺はただ待つだけだ。誰にも見られないまま、動くこともなく静かに。
そうして彼がまた光の粒になって帰ってくるのを視認して、こちらに歩み寄ってくる足音を聞きながら目を閉じた。目の前で気配が止まったと思ったら、こちらに体重を乗せのしかかってくるものだから驚いて目を開ける。不安定に揺らぐ青とかち合った。

「動かなかったから、心配した」

こちらが何も言わないのをいいことに彼は俺をそのまま抱きしめて首の毛に顔を埋めた。重い、と文句を言っても唸り声しか出ないのが恨めしい。そんなものは彼には通じないのだ。
彼は小さく、でも切実な色を混ぜた声で俺に言った。

「……お前はどこにもいかないよね?」

縋るような言葉に何も言えなかった。人の言葉を喋る口がなくてよかった、などとずるいことを考えてしまう。自分はいつか元の世界に帰る身だ。きっと、彼が勇者としての使命を果たす時俺はもう彼の召喚には応えてやれない。それはたとえ彼と俺両者が望もうともどうしようもできない問題だ。
ごめんな、と思いながら寄り添うことも何か言うことも無くただされるがままにしていると、彼は苦しいくらいに力を込める。それを甘んじて受け止め、先程まで暴れていた神獣が照準を合わせた先をみつめる。きっと、あの先にも俺は行けない。旅の道中の手助けくらいなら出来るけれど、大事なところで約立たずだ。力をつけ、神獣を取り戻し、厄災を封じ、姫を救う。それは俺には力を貸せず、彼にしかできないことだ。

「…………行こう」

そっと体を離し、蒼白な顔でふらふらと立ち上がる。正直心配だったがきっと言っても聞かないだろう。そうでなければ困る。勇者は常に前を向かなければならないのだ。
俺は、彼の支えになれているのだろうか。俺にはミドナがいた。彼女がいたから、誰にも認識されないトワイライトでも耐えられた。けれど、けれど、彼女にはもう二度と会えない。身が引き裂かれそうな思いだったし、今でも思い出すと胸がじくりと痛む。彼は、俺がいなくなってもきっと平気だろう。だけどもし俺がいなくなることによって彼の心に穴が開くようなことがあったら、それは少し、嫌だ。どうせなら、俺がここにいることもなかったことになればいい。そうすればきっと、きっと彼も……

20170812

prev next

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -