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「ヤッホー失恋して傷心中のタランザくん、気分はドウ?」

嫌味ったらしく笑いながら肩をポンと叩いてやると、心ここにあらずと言った隈だらけの目がこちらを向いた。茶色い肌は青ざめ黄土色にさえ見える。げっそりとした頬も、マントから見え隠れする体も、全体的に痩せ細っている。本当に一睡もしてないようだし、もしかしたらなにも食べていないのかもしれない。よく生きてられたなコイツ、とからかう気は失せ心配の色が増える。

「なんなのね、ひとのことジロジロ見てると思ったらいきなり声掛けてきて」

はた、と気づく。そう言えば彼は目が8つあったか。前によっつ、後ろにもよっつ。観察していたのも実は気付かれていた、と言う事か。失念していたとマホロアは反省する。

「ソレハ悪かったと思ってるヨ、デモ寝ずに食べずにズーットここにいるノハ流石にやめた方がいいんジャナイ?」

二人の頭上で黒雲が渦巻く。予想以上に早く来そうだ、さっさと彼を連れてあの自称大王の城にでも行かないと。

「……セクトニアさまを待ってるのね」

意地でも動かないタランザに、マホロアは苛立ちを隠せない様子で舌打ちした。びゅうびゅうと強風がワールドツリーを襲う。マントがバサバサと鬱陶しい。

「アノネェ!今日はプププランド最大級の嵐が来る日ナノ!風も強いし雨も降るし雷ダッテ鳴るかもシレナイ!ソンナ中に今のキミが居たら良くて風邪、悪くて死ぬヨ!?」

ついに雨まで降ってきた。横殴りの水が容赦なくマホロアの体を襲う。まるで無数の針に貫かれているようで、厚着してるのに肌がピリピリする。たちまちごお、と風が強くなりふらつく体をなんとか抑えるのに精一杯。

「それでも!いつセクトニアさまが帰ってくるかわからない!だからここで待ってるのね!」

――アアもう!本当に恋とかいうのは面倒ダ!
ついに強風がタランザが供えた青い花を持っていった。ワールドツリーのピンク色に青い花びらが舞うのをちらりと見て、マホロアはフードが脱げないように手で抑えながら叫んだ。

「イイカイ、よく聞いて!カービィにはひとは殺せない!アイツが倒した相手はそこら辺のぺんぺん草みたいにいつの間にか復活してるンダヨ!」

今でも覚えている。あの時死んだと思ったら崩壊したアナザーディメンションにいつの間にか立っていて、迎えに来たのであろうローアに拾われてプププランドに逆戻り。倒されたと聞いた知り合いの道化師も復活しているのを見てなんだか急に惨めったらしく思った。なんだったんだ自分の目的は。全宇宙の支配だったろう。それが冠に囚われて暴れて!情けないったらありゃしない!

タランザがハッとした目でこっちを向いた。瞳に少し生気が戻ったのを見て内心ガッツポーズをしながらぺんぺん草を指差した。

「今日は流石に新しくぺんぺん草が生えるコトはないと思うヨォ」

雨風に虐げられてボロボロになったそれは今にも倒れそうに揺れていた。いくら打たれ強くとも嵐には耐えられなかったようだ。

だんだん体に叩きつけてくる雨の痛みが麻痺してきた。指先が凍てつくように冷たい。本格的に室内に避難しないとまずい気がする。体に貼り付くマントを鬱陶しげに払って、マホロアはタランザの手を強引に引っ張って走り出す。あっ、とワールドツリーを振り向く気配も無視して一目散に城へ駆ける。抵抗はされなかったからもう知らない。言い訳は後ですればいい。早く熱いお湯に浸かって暖かいスープを飲みたかった。なんで恋愛劇の主人公を慰める役なんか熟さなきゃならないのか。コイツのせいで無駄に疲れた。これだから恋愛は嫌いなんだ。

20150307


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