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なんかただ従って普通に話しかけるのも釈なので、数日ほど観察することにした。
まず一日目。テーマパークの建設で徹夜明けの目を擦って注視してはみたが、前と変わらずにずっとワールドツリーの下に座り込んだまま動かない。改めて近くで見てわかったことは、まるで死者に手向けるかのように木の根元に大量の花が供えられていることくらいか。
「意外とコイツ、女々しいのカナ?」
あまりにも何も変わらなすぎたため飽きて眠ってしまい、目が覚めたとき日も沈んだにも関わらずまだソイツはいた。
二日目。変わりなし。昼からきた昨日とは裏腹に朝早くから来てみたが既にアイツはいた。一体何時からいるんだか。花の種類だけが変わっていた。
三日目。同じく花の種類以外変わりなし。眠くなって夕方には帰るのだが、いつからいつまでいるのか気になってきたから明日寝ずに見ようと思う。
四日目。雨が降っているにも関わらず傘も差さずにいつもどおりぼんやり佇む姿が馬鹿らしい。マホロアは眠い目をこじ開けてじっと白いおかっぱを見つめ続けた。
日が沈む。辺りも白み、ワールドツリーも闇にその身を覆われる。それでも彼は動かない。
「ホーント、失恋したヤツの行動は理解できないネェ」
マホロアの眠気も頂点に達し、夜が明けようとしていた。少しずつ、光が暗い空を裂く。それまで人形かと疑うほどぴくりとも動かなかった彼が、ようやく動き始めた。6本の手ですばやく供えた花をかき集め、朝焼けに包まれたワールドツリーを眩しそうに、愛おしそうに見上げる。
「セクトニアさま、また来ます」
一言だけつぶやいて、彼は踵を返した。その後も徹夜で観察したが、夜が明けるまでずっとワールドツリーの前に座り込んで、毎日違う花を供えて、夜明けが来ると花を片付けて「また来ます」とだけ呟いて帰るのだ。
「あーナルホド、ボクには一生理解できない世界だネェ」
はあ、とレモン色の瞳を細め、心底呆れたと草腹に転がる。つんとした草の匂いがいかにも平和そのものでマホロアは顔を顰めた。呆れかえるほど平和なポップスター。前から話には聞いていたが、ここまでだとは思わなかったしだいぶ雰囲気に飲み込まれた自分にも腹が立つ。
「供えてる花全部恋愛モノだし」
クロッカス、モモ、勿忘草、スターチス、ハナミズキ。
ああなんて一途なこと。甘酸っぱくて反吐が出そうだ。
「なーにがあなたを待っていますーダヨ、死んだ奴を一睡もしないで待ってるナンテバカみたいダ」
あーあ、自分はなにをしてるんだか。こんな胸焼けする恋愛劇誰が好んで見るか。明日突撃して散々からかってやる。それに明日は嵐なのだ。
マホロアは身を取り巻く憎らしいほど優しい睡魔に身を任せ、目を閉じた。
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