ビビアンとオウムとランペル


※ペパマリED後捏造注意
(ビビアンとオウムとランペル)



ぽっかりと、世界に穴が開いたのかとありえない錯覚をしてしまうほどまあるい月が、夜空に浮かんでいた。
今日の満月は、いつもより大きいような気がする。
魔女のような帽子を少し上げ、ビビアンは夜空を見上げた。ウスグラ村からオドロン寺院までのこの道は、月明かりに照らされていつもよりも明るい。
まあ、それでも鬱蒼と生い茂った木々のせいで他の場所よりも薄暗いことには変わらないが、これ幸いと彼は少し急いで歩いていく。だいたいオドロン寺院に行く人間なんてほとんど居ないのだ。なにをそんなに急いでいるのやら。

そうこうしている内に、ビビアンはオドロン寺院にたどり着く。ぎぃ、と錆びた扉が開く音は、彼を歓迎しているようにも思えた。
普通の人間なら腰を抜かすほどの不気味な建物の中を、ビビアンは臆さずにずんずんと進んでいく。

そのまま最上階まで進むのかと思いきや、ビビアンは途中の小さな部屋に入った。中には目立ったものはなんにもなく、一匹のオウムが居るだけ。
ぱちり、とオウムは閉じていた目を開ける。ビビアンを視界に入れると、不機嫌そうに呟いた。

「なんだ、オマエかよ」

「久しぶりにランペルが帰って来たって聞いたんだけど…どこに居るか知ってる?」

「ランペルぅ?ランペルならいつもの場所だよ」

めんどくさそうに話したオウムは、ありがとうとお礼を行って部屋を出て行こうとしたビビアンを引き止める。

「本当、オマエって物好きだよなぁ」

振り返り、きょとんとビビアンは目をしばたかせた。
どういう意味かわからない、と顔に書いてあるのがありありに見える。オウムは両翼を上げ、やれやれといったポーズをとった。

「毎回毎回こんな薄暗くてつまんない寺院に来て、ランペルと会話。確かにアイツは前まで引きこもりだったし、舞台に立つことを提示したアンタには感謝してるよ?でも久しぶりに帰って来たからってわざわざこんなところまで来る必要ないんじゃないか?」

うーん、と彼は考えこんだ。そんなこと、今まで意識したこともなかったのだ。

「…ランペルはアタイの友達だから」

はあ?とオウムは首を傾げた。友達?あんなヤツが?

「友達と話をしたいから、ここまで来る。アタイの頭に、これ以外の答えはないわ」

ビビアンの優しげな笑みに、オウムの訝しげな表情。
周りの風景も際立って、なんだかアンバランスな光景だった。

「――わっかんねぇ」

「…そっか」

彼は踵を返した。もとよりわかってもらえるとも思ってない。幼い頃からランペルと共にここにいたオウムにとって、友情なんて理解できないのだろう。
ここにいる生き物は、みんな世間知らずで、馬鹿だ。



**

―――最上階。螺旋階段の先。
天井にぶら下がる大きな鐘と、アンバランスな猫足バスタブなどの生活感溢れる家具。
パーティー帽子みたいな三角の青い帽子と、胸元のリボン。シーツを被ったような外見。彼はなんだか気難しそうに手元の紙を見ながら呻っている。魔法陣のようなものが書かれたそれは、普通の人が見たら訳がわからないような難しいものだった。

「そー…れっ!」

キラリ、と彼――ランペルの目が赤く光った。魔法陣も、それと連動するかのように赤く染まる。
猫足バスタブにたまっている水が、少しだけ浮き上がった。彼の表情が緩む、その時。
浮き上がった水は無残にも大きな音を立てて爆発してしまった。
はぁ、とため息をつく。

「…あーあ、また失敗しちゃったよ」

悲鳴をあげながら、誰かがここに上がってくる。振り返ってみると、ビビアンが心配そうに立っていた。

「なにか爆発する音がしたんだけど…ランペル、大丈夫?」

「ああ、これくらいへーきへーき。久しぶり、ビビアン」

安堵して、詰めた息を吐き出すビビアンは、同じように「久しぶり、ランペル」と返した。
ふと目に入った、ボロボロになった魔法陣に首を傾げる。ランペルは苦笑いしながら、それを拾って言った。

「ほら、ぼくって変身する魔法が得意じゃん?でもそれ以外の魔法はからっきしなんだよね」

「そうなの?」

心底意外だ、という風に、ビビアンは目を丸くする。その反応にランペルは少しだけむくれながら続けた。

「水とか炎とかの魔法が使えたら、舞台で役に立つかなって思ったからこうして練習してるんだけど…」

このとおり、全然ダメ。
自虐するかのように、ランペルは笑った。
そういえば、彼がこんな表情を見せるのは、舞台に立ってからだっけ、とビビアンは思考する。
マリオの名前と体を奪って、彼の仲間を騙した頃は、いたずらにあくどい笑みばかり浮かべていたような気がする。あの冒険が終わった後だって、ずっとつまらなさそうに寺院に引きこもっていた。

――うん、やっぱりここはランペルの友達として一肌脱ごうかな。
ビビアンはそう決意して、ランペルに告げた。

「水の魔法が得意な人は知らないけど、炎の魔法ならアタイ出来るし、教えてあげようか?」

ランペルはポカンと口を開けた。
その表情がなんだか面白くて、つい笑ってしまった。
笑うなー!と再びむくれるランペルは、急にしおらしくなり、恐る恐る尋ねる。

「…教えてもらっても、いいの?」

ビビアンはにこりと笑い、ランペルの手を取った。

「いいのいいの!気にしないで。だってアタイ達、友達でしょ?」

「とも…だち?」

呆気に取られたような表情で、ランペルは呟いた。

「そう、友達!
…もしかして、アタイのこと友達だと思ってない?」

自分のことをどう思っているか、という質問を、ビビアンは投げかけた。
ランペルは無表情でしれっと答える。

「いつもぼくに構ってくる変人」

「なによ、それ」

たちまち悲しそうな顔がぶすっとした顔に変わる。
それを笑いながらみて、ランペルは俯き呟いた。

「でもまあ、友達…ね」

「?」

きょとんとするビビアン。
ランペルは顔を上げた。その表情は、なんだか前よりも晴々としていた。

「たまにはいいかもね」

fin

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