リンクとヨッシー
立春を過ぎて初めて吹く強い南風のことを春一番というのだと、屋敷の図書室の本を読んで知った。
それをカービィになんとなく話してみたら、嬉々としながら言いふらしに行ったので、きっとこじれて意味が違う春一番がこちらに帰ってくることだろう。
「リンクさんリンクさん」
自室のがたがたと揺れる窓をぼんやりと眺めていたら、そこにひょっこりとヨッシーが顔を出した。風がふきさらす外にいて寒くはないのだろうか。
「今のんびりおさんぽしてたんですけど、お花咲いてたんですよぉ」
そっと、窓を開ける。すかさず風が舞い込んできて、部屋を荒らそうとするものだから、俺は慌ててヨッシーを部屋に上がらせた。おじゃましますなんて礼儀正しく靴まで脱ぐくせに、勝手にベッドにごろんと寝転んでいる。
「で、なんの花が咲いてたんだ?」
ああ今思い出したとばかりに手をぽんと叩くヨッシー。今ではもう彼のマイペースぶりには慣れっこだが、最初亜空軍を追っていた頃などは戸惑ったのを覚えている。
よいしょ、と掛け声を発しながらヨッシーは上体を起こした。
「梅ですよ梅!干したらすっぱくておいしいあれです!」
食べ物の話になった途端に饒舌になるヨッシーに、俺はつい苦笑いしてしまった。わかっていることだが、ヨッシーの大食いはカービィにも引けをとらない。
「リンクさんも一緒に行きましょうよ、それで梅干しのおにぎり作ってください!」
――それが目的か。
「でもまだ実は成ってないと思うぞ」
あ、と間抜けな声が響いた。俺はつい、吹き出す。むぅ、とヨッシーは膨れっ面になる。
俺はもう一度、窓を開けた。相変わらず風が強い。
「じゃあ春一番にさらわれないように守ってあげなきゃな」
ハッ、と息を飲む音が聞こえた。俺はヨッシーに手招きをしながら、ベランダに出た。
ちょっと外に出るだけで髪がぐしゃぐしゃになる。帽子は飛ばされそうなので、部屋に放り込んでおいた。
後ろから声が聞こえる。
「リンクさんリンクさん、傘借りていいですか〜?」
「さすがに傘じゃ木は守れないと思うぞ」
そうですか…と残念そうな声。
結局ヨッシーは手ぶらで出てきた。しっかりと窓を閉めて。
そのままベランダからクローショットを使って降りようとする俺を、しかしヨッシーは呼び止めた。
振り向くと、どこから取り出したのかヨッシーはちょうど青いコウラのようなものを口に入れているところだった。ほっぺたがリスみたいに膨らんで、ちょっとおもしろい。
そのままヨッシーは俺に背を向ける。乗れ、と言うことだろうか。
言い付け通り背中に乗る。そのまま、ヨッシーは思い切りジャンプした。
すると、なぜか空を飛んでいる。青いコウラのようなもののおかげ、なのだろうか。
風が強いせいか少し不安定だ。でもそれが楽しかったりする。
目一杯空の旅を楽しんでいる俺は、
梅の木の上でヨッシーがコウラを吐き出して、落ちる羽目になるなんて、考えてもいなかった。
20140318
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