マリオとカービィとリンク
ひょいと、すれ違いざま、トレードマークである赤い帽子を掠め盗られた。
無意識に頭に手を置いて、マリオは帽子を盗んだ張本人であるカービィを睨みつける。
「マリオの帽子もーらい!」
上機嫌に帽子をひらひらと動かし、深く被る。そのままぽてぽてと走り去っていくカービィを、マリオは怒気の表情を顔に浮かべながら追いかける。
「待て、カービィ!」
「待てって言われて待つひとなんていないよっ」
余裕そうにあっかんべーをするカービィに、マリオの怒りはどんどん頂点に近づいていく。
それを見てカービィは少し嬉しそうに、走るスピードを上げた。当然マリオも同じように速くなる。
まるでレースみたいだったよ、と後に遠くから見ていたリュカが言うくらいに、二人の追いかけっこはヒートアップしていった。
最初は怒りでいっぱいだったマリオの表情も、時間が経つにつれてだんだん楽しそうになっていく。
終盤になってくると、もう帽子を取り返すという目的はどうでもよくなり、リュカが言った通り「レース」になった。
森を抜け、街を駆け抜け、浜辺に足を取られないように、速く速く――
軽口を叩きながら走っていた二人は次第に無口になり、本気で走っているのを彷彿とさせていた。
太陽が沈んでいく。もう長い時間走っているような気がする。
もはや二人の間に言葉はいらなかった。
ゴールはそう、みんなが待っている屋敷。きっと今頃夕食を作っているのだろう。
少しずつ、屋敷の姿が見えてきた。マリオもカービィも、残していた体力をすべて使い切る勢いで走る。
バン、と突き破る勢いで扉を開く。ぎょっ、と洗濯物を取り込もうとしていたのだろう、籠を持ちながら歩いていたリンクは目を丸くした。
二人は彼に詰め寄る。
「どっちが速かった!?」
「ぼくだよね!?」
「えっと…」
リンクは困ったように眉を下げた。彼らが転がり込んできたのは、ほぼ同時。どちらが速いかなんて問われても、答えられるはずがなかった。
「引き分け…かな」
「ええー!」とカービィは不満げな声を上げた。対照的にマリオはやりきった顔をしている。
「あ、カービィ帽子返して」
思い出したようにカービィを見るマリオ。カービィはまだ不満そうだったが、まぁいいやと帽子を返す。
「目的は果たしたしね」
目的って?と首を傾げるマリオに、カービィはウィンクした。
「ひみつ!」
(ただキミと本気で勝負したかっただけ!)
20140227
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