サヨナラセンシ、また来て現世


※現パロ(転生パロ?)
死んでる
リンクとマリオ



「……そうか。」

ごめん、と笑顔が歪んだ。そんな顔、彼にはして欲しくなかったのだけれど。トレードマークだった赤い帽子は頭にはなく、普通の洋服に袖を通したマリオはそれでも未だに戦士だった。リンクもたった今、自分がかつて戦士であったことを糸を手繰り寄せるように少しずつ思い出してきた。そう、大迷宮で自らの影に打ち勝ち、その奥に居たアレに挑み、それから。

「俺達、死んだんだな」

ごめん。再び沈んだ声が静かな部屋に響く。似合わないと思った。暗い顔も、普通のワイシャツも、ネクタイも。マリオはやっぱり、あの格好で、あの陽気さじゃないと違和感がある。

「全員がフィギュアと化したあの後、ボクだけは物陰にひっそりと隠れていたから、わかったんだ」

スマッシュブラザーズは、そう簡単に死なない。そう出来ているのだ。死ぬほどのダメージを受けても、フィギュアと化すだけ。有事の際も生命の珠さえあればファイターが触れるだけで復活する。実質死ぬ、としたら創造の神であるマスターハンドが死亡し、生命の珠もなくなり全員がフィギュア化、つまり全滅すること。それとあともう一つ。

「みんなまとめて粉々にされたよ。形も残らないほどにね。ボクもすぐに見つかって同じ末路を辿った」

もう一つ。フィギュアそのものが破壊されること。それはすなわち、唯一の死である。イメージの塊が消滅してしまっては、例えマスターハンドが生きていたとしても直せる可能性は限りなくゼロに近い。
当然今までにそんな自体は起こらなかったけれど。あのタブーはいとも簡単に、戦士達を殺してしまった。

スマッシュブラザーズは亜空の使者に敗北したのだ。


「変な話だと思わないかい?ボクはそうでもないけど、世界を救ったと思ったら大乱闘に招待されて、招待されたと思ったらこれまた世界の危機で、守れずに死んだと思ったら今度は普通の人間になってるなんてさ」

想像してみた。たしかにおかしい、とリンクはつい吹き出した。どんな波乱万丈な人生だ。我ながらひどい。

「……今度こそはちゃんと、普通の人として幸せに生きてくれよ、リンク」

「それはこっちのセリフだよ、元リーダー」

マリオがリーダーなのは、非常時のみだった。でもリンクはまだ、リーダーとしての彼しか知らない。それでも、初対面が誤解から始まった割には二人の間には確かな信頼関係が築かれていた。
リンクは湿っぽい空気が苦手なので、未だ表情が硬いマリオの頬を思い切りつねってみた。

「リーダー失格だとか変なこと思うなよ?まだこうしてみんな息をしているんだ。むしろ全力で二度目の人生を楽しむ勢いで行け。舐めるなよ、俺はこれでもまだ勇者だ」

悲鳴を上げるマリオに淡々と告げ、やわらかな頬から手を離す。ひりひりするのかあかくなったほっぺたを手でさすりながら、マリオはリンクの切れ長な青い目を睨みつる。

「きみに当たり前のこと言われるなんて思ってもみなかった!ああそうさ!ボクだってまだスーパースターさ!全力でこの状況を楽しんでやるよ!」

ヒゲの生えた口元が挑戦的に上がった。よし、前の調子に戻った、とリンクは満足げに目を細めた。
それより。

「ここはそのまま死後の世界なのか、はたまた輪廻転生か」

リンクの言葉にマリオはそっと、窓から空を見た。空は透き通るように蒼く、雲は一つもない。死後の世界にしては、あまりにも現実的過ぎた。最初から覚えていたマリオはともかくリンクはさっき思い出したばかりだ。おそらく他のメンバーも、覚えているひととそうでないひとがいるだろう。もしここが死後の世界なら。

「……自分が死んだことも知らずに普通の人として生活してるってことか。あまり考えたくないなぁ」

「トワイライトみたいだな」

きょとん、と空色の双眸がこっちを向く。黄昏の黒雲が覆う影の領域のことだよ、と説明するとそれじゃわからないとばかりに黙って首を振られた。

「ボク、そういえばきみのこと何も知らない」

「俺もマリオのこと何も知らない」

少しばかりの沈黙。お互いにしばらく顔を見合って、そして同時に吹き出した。

「ぷっ……はははっ!きみねぇ、何年の付き合いだと思って…!」

「う、うるさいな……っ!今思い出したんだからしかたな…くく……っ」

マリオとリンク。ふたりはいわゆる友人関係、というやつであった。

20160407

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