(ルフ)ルキと(マリ)ピチ
オーブンから鉄板を取り出し、まあるいケーキに慣れた手つきで粉砂糖を振るった。包丁で切り分け、とびきり大きなひとつをそっと違う綺麗なお皿に(きっと更にデコレーションするのだろう)、もうひとつを小皿に乗せ、私に差し出す。
「どうかしら」
スプーンでひとくち、口に運ぶ。少し控えめな甘さが口いっぱいに広がった。なめらかなミルクチョコレートがふんだんに使われたガトーショコラ。流石はお菓子作りが得意なピーチ姫だ。これならきっと、彼も文字通り飛び跳ねて喜んでくれるだろう。
「とてもおいしいです!きっとマリオさんも気に入っていただけると思います!」
「それならいいのだけど…あなたのも、丁度焼けたみたいよ」
マリオさんの名前を出すと、ピーチ姫は頬を桃色に染め、少し緊張したのかほっとため息をついた。私より年上だが、彼女がここで一番"恋する乙女"みたいだと言うことは周知の事実だ。私はあまり女の子らしいことはした事が無いし、二の月に行われる行事についても、教えてくれたのはピーチ姫だ。そして、彼にチョコレートを作るといいとアドバイスしたのも。
ピーチ姫がもうひとつのオーブンから私が作ったケーキを出してくれた。そっとのぞき込むと、きちんと焦げることなく焼けていた。最悪の事態を避けられ安堵する。器具を手渡され、彼女のように綺麗ではないが白い粉を振るった。雪のように舞う粉砂糖はいつ見てもなんだか心が踊り出す。
少し味見をしてみた。その様子を見て、どうかしら、と同じ言葉を問われる。
「…甘いです」
目を細めてそう言うと、パァンと手を叩き、自分の事のように嬉しそうに微笑んだ。
「成功ね」
「…でも、私には少し、甘すぎるような気がします」
彼の顔を思い浮かべる。いつも戦術書や異界の本ばかり読んでいる彼が好んで口にした飲み物はなんだったか。そんなことすらわからないほど、私は彼の横顔しか見ていない。
あら、それなら心配ないわ。彼女はあくまでマイペースに、固い私に笑いかけた。
「バレンタインデーはいっそ甘すぎる方がいいのよ」
20150214
―――――
「そうね、どうせルフレに渡すならその服じゃなくて、もっとかわいくて女の子っぽい服を着た方がいいわ!」
「ええ!?なんでルフレさんに渡すってわかって…じゃなくて!わ、私に女の子っぽい服は似合いません!」
「女のカン、よ。大丈夫!服はたくさんあるわ!もっとおめかししなきゃせっかくのかわいい顔がもったいないわ!さあさあLet'sお着替え!」
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